新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の「新規性」と「新市場」とは?要件をわかりやすく解説
「既存事業とは違う新しいことに挑戦したいが、それが補助金の対象になる『新規性』や『新市場』に当たるのか分からない」——新事業進出・ものづくり商業サービス補助金(令和8年度第1回、公募期間:令和8年6月29日〜9月30日18:00)への申請を検討する中小企業経営者から、こうした相談が増えています。
結論から言うと、「新規性」と「新市場」は別々の2つの要件であり、両方を同時に満たす必要があります。さらに、審査段階では「新市場性」「高付加価値性」という別の評価軸も存在し、こちらはどちらか一方を満たせばよいという違いがあります。この2つを混同すると事業計画の作り方を誤ってしまうため、本記事では公募要領(1.0版)に基づき、両者を整理して解説します。
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金とは
別コラムにてご紹介の通り、本補助金には「革新的新製品・サービス枠」「新事業進出枠」「グローバル枠」の3つの枠があります。このうち「新事業進出枠」は、既存事業とは異なる新市場・高付加価値事業への進出を支援する枠であり、補助上限額は従業員数に応じて2,500万円〜7,000万円(賃上げ特例適用時は3,000万円〜9,000万円)、補助率は原則1/2(地域別最低賃金引上げ特例適用時は2/3)、補助事業実施期間は交付決定日から14か月以内(採択発表日から16か月以内)です。補助下限額は750万円となっており、比較的規模の大きい投資を想定した枠であることが分かります。
この新事業進出枠に申請するためには、事業計画が「新規性」と「新市場」という2つの要件を満たしていることが前提条件となります。
要件①:「新規性」とは何か
新事業進出枠でいう新規性とは、自社にとっての新規性であり、日本初・世界初といった社会全体における新規性を意味するものではありません。公募要領上も、新事業進出枠に取り組む中小企業等にとって新規性を有するものであれば要件を満たすとされています。
ただし、過去に製造・提供していた製品等を再び手がける「再製造等」は、新たな製品等の製造とはみなされず、新規性が認められません。一方で、本補助金の公募開始日(=公募要領の公開日)以降に初めて取り組む事業については、新規性を有するものとみなされる点も実務上のポイントです。
要件②:「新市場」とは何か
新市場とは、既存事業では対象としていなかった「ニーズ・属性」を持つ顧客層を対象とする市場のことです。ここでの属性には、法人/個人の違い、業種、行動特性などが含まれます。つまり、単に売り先の会社を変えるだけでなく、顧客の性質そのものが既存事業と異なっているかが問われます。
新市場・新規性に「該当しない」7つのパターン
公募要領では、新市場性・新規性が認められない典型例として、以下の7パターンが明示されています。事業計画を作る前に必ず確認してください。
①既存の製品等の製造量・提供量を単に増大させる場合
②過去に製造していた製品等を再製造等する場合
③既存の製品等の製造方法を単に変更する場合
④製品等の性能が定量的に測定できるにもかかわらず、有意な差が認められない場合
⑤既存の製品等と対象市場が同一である場合(既存需要が新製品に代替される場合や、単なるメニュー追加とみなされる場合を含む)
⑥既存の製品等が対象とする市場の一部のみを対象とする場合
⑦既存の製品等と、単に商圏(地域)のみが異なる場合
この7パターンに1つでも当てはまると判断されると、新事業進出枠そのものの対象外となるおそれがあるため、事業計画書では「既存事業との違い」を具体的な根拠とともに示すことが不可欠です。
審査項目としての「新市場性・高付加価値性」—①②は選択制
ここまでの「新規性」「新市場」は、新事業進出枠に申請するための基本的な適格要件でした。これに加えて、公募要領の書面審査項目には「新規事業の新市場性・高付加価値性」という評価基準があり、新事業進出枠に限って審査されます。重要なのは、この審査項目は①新市場性、②高付加価値性のいずれか一方を満たせばよい「選択制」である点です。
①新市場性
新規事業で製造・提供する製品等が属するジャンル・分野について、社会における一般的な普及度・認知度が低いことを、客観的なデータ・統計等で裏付けられるか
②高付加価値性
同一ジャンル・分野の中で、一般的な付加価値や相場価格と比較して、高水準の高付加価値化・高価格化を図るものであり、その源泉となる自社の強みが妥当に分析されているか
つまり「自社にとって新規性・新市場のある事業」であることに加え、「社会的にも珍しい分野への挑戦(①)」または「同じ分野の中でも高付加価値・高価格を実現する挑戦(②)」のどちらかを説明できる事業計画が、審査で高く評価されます。
ジャンル・分野の区分方法に要注意
①新市場性・②高付加価値性を審査する際、まず「新製品等が属するジャンル・分野」を特定する必要がありますが、その区分の際には製品等の「性能」「サイズ」「素材」「価格帯」「地域性」「業態」「顧客層」「効果」といった要素を含めてはならないとされています。
例えば、「高精密小型医療機器部品」ではなく「医療機器部品」、「東京都港区の高級焼肉店」ではなく「焼肉店」という形で、これらの特色を排除したシンプルな分野名で区分する必要があります。なお、排除された特色(性能・価格帯・顧客層など)は、新市場性・高付加価値性以外の審査項目(事業の実現可能性や公的補助の必要性など)で別途評価される仕組みになっているため、事業計画書全体の中でしっかり訴求することが大切です。
まとめ:事業計画の設計は「要件」と「審査基準」を分けて考える
新事業進出枠での採択を目指すには、次の2段階で事業計画を検証することが重要です。
・適格要件の確認:自社にとっての新規性があるか/既存事業と異なる新市場(新しいニーズ・属性の顧客層)を対象としているか。該当しない7パターンに当てはまっていないか
・審査基準への対応:①新市場性(分野の普及度・認知度の低さ)または②高付加価値性(同一分野内での高付加価値化・高価格化)のどちらを軸に訴求するかを決め、客観的データで裏付ける
これらは似た言葉が並ぶため混同しやすく、事業計画書の記載内容によっては「新規性はあるが新市場性の説明が不十分」「新市場ではあるが審査基準の高付加価値性の根拠が弱い」といった評価に留まるケースも少なくありません。新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の申請をご検討の際は、ぜひお気軽にご相談ください。
本記事は令和8年6月発行の公募要領(1.0版)に基づいて作成しています。公募要領は改訂される場合があるため、申請にあたっては必ず事務局公表の最新版をご確認ください。







