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【人材育成】「経営を任せたい人材」がなぜ辞めていくのか——期待と離職のあいだにある構造的なすれ違い
  


鴨居 陽介
編集: 鴨居 陽介
アクセルパートナーズ 取締役・中小企業診断士

国内Sier企業でシステムエンジニア、PM、研修講師、法人営業を経験。 人と組織の成長を支えるマネジメントに携わる。2023年 中小企業診断士登録。2025年 アクセルパートナーズの理念や行動指針に強く共感し、取締役として参画。

「本当に期待していた人材に、辞表を出されました」

こうした経験を持つ経営者は、決して少なくありません。むしろ、企業規模を問わず頻繁に起きている現象です。

不思議なことに、辞めていくのは「使えない人材」ではありません。経営者が最も成長を期待し、将来を託したいと思っていた人材ほど、ある時突然、辞意を告げることがあります。

「もっと長く一緒に働きたかった」「なぜもっと早く相談してくれなかったのか」——そうした後悔の声を、経営者側から繰り返し聞いてきました。

この問題は、個人の感情や相性で説明できるものではありません。組織と人材のあいだに生じる「期待値のすれ違い」という構造的な問題が、その根底にあります。本稿では、そのメカニズムと対処法をお伝えします。


第1章|「期待していた人材が辞める」という構造的矛盾

なぜ、期待されている人材ほど辞めやすいのでしょうか。

一般的に、優秀な人材は「現状に疑問を持つ力」を持っています。現在の業務に問題を感じたとき、思考停止するのではなく「なぜこうなっているのか」「もっとよくできるはずだ」と考えます。その知的誠実さが、かえってフラストレーションを生むことがあります。

さらに、経営者から「任せたい」と伝えられた人材は、高い期待に応えようとするほど、現実とのギャップに苦しむことがあります。「任せる」と言われているのに意思決定の権限がない。将来のポジションが見えない。評価の基準が曖昧だ。——こうした積み重ねが、静かに離職を決断させていくのです。


第2章|優秀な人材が離れる5つのすれ違いパターン

パターン①|「期待している」が言葉だけになっている

「君に期待している」という言葉は、伝えた経営者には誠実なメッセージです。しかし、期待の中身が具体化されていないと、受け取った側は「何を期待されているのか分からない」という不安の中に置かれます。期待を言語化しない限り、動機づけにはなりません。

パターン②|「任せる」と言いながら意思決定を通さない

「この事業を任せる」と言われた人材が、重要な判断のたびに「経営者の承認が必要」という壁にぶつかります。形式上は任されているのに、実質的な裁量がない。この「任せる」と「権限」のズレは、優秀な人材にとって特に大きなストレスになります。

パターン③|成長のフィードバックが届いていない

経営者は「あいつは伸びている」と評価していても、それが本人に伝わっていないケースは多い。自分が正しい方向に進んでいるかどうかを確認できない状態は、優秀な人材にとって特に不安です。進んでいる方向への確信がなければ、モチベーションは維持できません。

パターン④|キャリアパスが見えない

「あと何年で、どのポジションになれるのか」。この問いに答えられない組織は、優秀な人材に「自分のキャリアはここでは描けない」と判断される可能性があります。将来像の不透明さは、他社のオファーへの感度を高める要因になります。

パターン⑤|「使いやすい人材」として固定されてしまっている

優秀だからこそ、現在の業務で頼られすぎる。新しい挑戦を与えてもらえず、得意な領域でのルーティンが続く。成長実感が失われた優秀な人材は、より刺激のある環境を求めて動き出します


第3章|「残る幹部候補」と「去る幹部候補」の違い

同じ組織で育ち、同じように期待されながら、片方は幹部として定着し、片方は離職する。この分岐点に何があるのでしょうか。

実際の事例から見えてきた違いは、「期待値の共有があるかどうか」という一点に集約されます。

特徴①|成長の「地図」を持っている

定着する幹部候補は、「自分がどこに向かっているか」を明確に知っています。それは経営者との対話を通じて作られた地図です。どのような経験を積み、何を身につければ、どのポジションに到達できるか——その道筋が、日々の仕事に意味を与えます。

特徴②|「失敗しても大丈夫」という信頼関係がある

任せると言いながら、失敗すると叱責される。そういう環境では、人は挑戦しません。定着する幹部候補の周囲には、「挑戦を評価し、失敗から学ぶことを支援する」文化とリーダーが存在します。

特徴③|定期的に「対話の場」がある

経営者と幹部候補の定期的な1対1の対話が、関係性を維持しています。業務の報告だけでなく、「自分はどう見られているか」「今後どうなりたいか」を話せる場が、すれ違いを防ぎます。


第4章|期待値の可視化と対話設計のフレームワーク

「期待していた人材が辞める」問題の予防に最も効果的なのは、期待値を可視化し、定期的に対話で更新する仕組みを作ることです。

設計要素 内容 頻度の目安
期待役割の明文化 「3年後にこのポジションを担ってほしい」という期待を文書で共有 年1回・役割変更時
成長フィードバック面談 「今どう見えているか」を率直に伝える場を設ける 四半期ごと
権限移譲の段階設計 任せる範囲と意思決定の境界を明文化する 都度更新
キャリア対話 本人のキャリアビジョンと組織の期待を擦り合わせる 半期ごと
挑戦機会の設計 現在の役割を超えたプロジェクト・機会を意図的に用意 継続的に

このフレームワークのポイントは、「言っている」ではなく「設計している」という意識の転換です。期待を言葉で伝えることは出発点に過ぎず、それを仕組みとして運用することが、優秀な人材の定着につながります。


第5章|継続的な関係性を維持するための伴走モデル

期待値のすれ違いを防ぐための対話は、一度で完成するものではありません。人材の成長とともに、期待値も、役割も、キャリアビジョンも変化します。それに合わせて、対話の内容も更新されなければなりません。

ステップ1|「現在地の確認」を制度化する

定期的に「今、この人材はどこにいるか」を確認する場を作ります。経営者が思っている成長の姿と、本人の自己認識のズレをできるだけ早期に発見することが、すれ違いの予防になります。

ステップ2|第三者を介した「関係性の客観視」

経営者と幹部候補の関係は、近すぎるがゆえに問題が見えにくくなることがあります。外部の専門家が双方の声を聞き、「どこにずれが生じているか」を可視化する介在が、関係性の修復・強化に有効です。

ステップ3|育成の「伴走者」を組織外に持つ

幹部候補自身が、社内では話せない悩みや野望を話せる伴走者(メンター・コーチ)を持つことで、離職につながる不満が顕在化する前に対処できます。「外への出口」を作ることで、組織への「残る動機」が強化されるという逆説的な効果も確認されています。


よくあるご質問

Q. 辞意を表明してから引き留めることはできますか?
A. 辞意が出た時点では、すでに決断がほぼ固まっているケースが大半です。引き留めに成功したとしても、根本的な課題が解決されなければ再び離職に至ります。引き留めより「辞意が出る前の対話」の設計が重要です。
Q. 期待を伝えることで、かえってプレッシャーになりませんか?
A. 期待を伝えることと、プレッシャーを与えることは異なります。「〇〇を期待している、そのために私はこう支援する」という伝え方が重要です。期待だけを一方的に渡すのではなく、支援とセットで伝えることで、プレッシャーではなく動機づけになります。
Q. 幹部候補が複数いる場合、全員に同じ対話設計が必要ですか?
A. 基本的な仕組みは共通でよいですが、各人のキャリアビジョンや成長課題は個別です。「制度の枠組み」は統一し、「対話の中身」は個別化する設計が現実的です。

まとめ|「期待している」は、仕組みにして初めて伝わる

優秀な人材の離職は、「もっと早く動いていれば防げた」ことがほとんどです。しかしその「早く」は、問題が顕在化してからでは遅い。定期的な対話の設計と、期待値の可視化という予防的な仕組みが、優秀な人材を組織に留め続けることを可能にします。

  • 期待を「言葉」から「設計」に変える
  • 権限移譲の範囲を明文化し、形式と実態を一致させる
  • 定期的な対話で、期待値をリアルタイムに更新し続ける

アクセルパートナーズでは、幹部候補の定着と育成を支援する伴走型のプログラムを提供しています。「まず現状を整理したい」というご相談だけでも歓迎です。お気軽にお問い合わせください。

鴨居 陽介
編集: 鴨居 陽介
アクセルパートナーズ 取締役・中小企業診断士

国内Sier企業でシステムエンジニア、PM、研修講師、法人営業を経験。 人と組織の成長を支えるマネジメントに携わる。2023年 中小企業診断士登録。2025年 アクセルパートナーズの理念や行動指針に強く共感し、取締役として参画。

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