【サイバーセキュリティ対策】社員を”加害者”にしないために|経営者が知るべき内部不正リスクと仕組みづくり
この記事でわかること
- 内部不正が「悪い社員」ではなく「普通の社員が追い詰められた結果」として起きる理由
- 「疑う管理」ではなく「守る仕組み」として機能するセキュリティ対策の考え方
- 中小企業が今すぐ取り組める内部不正防止の具体的な3ステップ
内部不正が発覚したとき、経営者がまず感じるのは「裏切られた」という感情かもしれません。しかし少し立ち止まって考えてみてください。その社員は、最初から不正をするつもりで入社してきたのでしょうか?
ほとんどの場合、答えは「ノー」です。内部不正の多くは、プレッシャーや孤立、チェック機能のなさが重なった末に、本来なら誠実に働ける社員が「加害者」になってしまう悲劇です。経営者がやるべきことは、「悪い社員を見抜く」ことではなく、「社員を加害者にしない仕組みを作る」ことです。
1. 内部不正の実態:「普通の社員」が引き起こす
内部不正は他人事ではない
IPA(情報処理推進機構)の「組織における内部不正防止ガイドライン(第5版)」では、内部不正の発生状況として以下の傾向が示されています。
- 情報漏えいインシデントの多くに、内部関係者が関与している
- 不正の発覚契機は「システムによる検知」よりも「同僚・上司の通報」や「偶然の発見」が多い
- 不正行為者の多くは、在職中に不満・プレッシャーを抱えていた
- 退職前後の時期に、情報の持ち出しが集中する傾向がある
出典:IPA(情報処理推進機構)「組織における内部不正防止ガイドライン 第5版」(2022年)
https://www.ipa.go.jp/security/guide/insider.html
中小企業が特に注意すべき理由
大企業では、内部統制や監査部門が機能しているため、不正が起きにくい環境が整っています。一方、中小企業では「経理担当が1人」「システム管理者が兼任」「ログが記録されていない」という状況が珍しくありません。
これは「社員を信頼している」という経営方針の表れでもありますが、見方を変えれば「不正をしようと思えばできる環境」が整っていることを意味します。
2. 「疑う管理」ではなく「守る仕組み」という発想
性弱説に基づく組織管理の考え方
「社員を監視・管理する」という発想は、職場の信頼関係を損なうリスクがあります。しかし、ここで重要なのは目的の違いです。
| 「疑う管理」 | 「守る仕組み」 | |
|---|---|---|
| 目的 | 不正をした社員を見つける・罰する | 社員が不正をしにくい状況を作る |
| 姿勢 | 性悪説(社員を信用しない) | 性弱説(人間の弱さを前提に環境を整える) |
| 効果 | 発覚後の対処が中心 | 不正の発生そのものを予防できる |
| 社員への影響 | 萎縮・不信感・離職リスク | 「守られている」という安心感 |
「ログを記録する」「アクセス権限を制限する」という対策は、社員を監視するためではなく、社員が「魔が差す」状況に陥らないようにするためだと理解することが重要です。「見られている」という意識は、人間の行動を正しい方向に保つ強力な抑止力になります。
3. 今すぐ取り組める内部不正防止の3ステップ
ステップ① アクセス権限を「業務に必要な範囲」に絞る
最初に取り組むべきは、「最小権限の原則」の適用です。すべての社員がすべての情報にアクセスできる状態は、内部不正の「機会」を最大化しています。
- 顧客データは営業担当のみ
- 給与・財務データは経理担当のみ
- システム管理権限は担当者のみ
- 退職・異動時はアクセス権を即日変更・削除
ステップ② 操作ログを「記録・保存・定期確認」する
「誰がいつどのデータを操作したか」を記録するログ管理は、内部不正の抑止力として非常に効果的です。「ログが残っている」という事実だけで、不正行為への心理的ブレーキになります。
- ファイルサーバーやクラウドストレージのアクセスログを記録する
- メール送信・外部転送のログを保存する
- USBメモリ等の外部記録媒体の使用履歴を管理する
- ログは定期的に担当者が確認し、異常があれば即対応できる体制を整える
ステップ③ 「1人で完結する業務」をなくす
経理・購買・契約承認などの重要業務を1人の社員に任せきりにすることは、内部不正の温床になります。複数人のチェックを必要とするフローを設計することで、不正が起きにくい構造を作れます。
- 一定金額以上の支払いには2名以上の承認を必須にする
- 顧客データの一括エクスポートには上長承認を必要とする
- 業務引継ぎの際は必ず複数人で確認する手順を設ける
4. よくある質問(FAQ)
Q1. 「ログを取る」と社員に伝えると、信頼関係が損なわれませんか?
「会社が社員を守るための仕組み」として説明することが大切です。「不正をしやすい環境は、正直に働いている社員にとっても不安な環境」であることを伝えると、多くの社員は理解してくれます。透明性をもって導入することで、かえって職場の安心感につながるケースが多いです。
Q2. 中小企業でもログ管理ツールを導入できますか?コストはどのくらいですか?
クラウドサービス(Microsoft 365、Google Workspaceなど)を利用している場合、標準機能として操作ログが記録されています。専用のセキュリティ管理ツールを導入する場合は月額数千円〜数万円が相場です。IT導入補助金(セキュリティ対策推進枠)の活用でコストを抑えられる場合もあります。
Q3. 内部不正が起きてしまった場合、どう対応すればよいですか?
まず証拠を保全し、不用意な対応で証拠が消えないようにすることが最優先です。その後、事実確認・法的対応・被害拡大防止の順で動きます。対応が遅れると被害が拡大する可能性があるため、平常時から「インシデント対応手順」を整備しておくことを推奨します。
Q4. 退職予定の社員への対応で注意すべきことはありますか?
IPAの調査では、内部不正は退職前後に集中する傾向があります。退職が決まった時点でアクセス権限を段階的に縮小し、退職当日にはすべてのアカウントを無効化するルールを設けることが重要です。また、業務引継ぎの際に重要データの持ち出しがないかを確認する手順も整えておきましょう。
まとめ:経営者の責任は「仕組みを作ること」
内部不正は「性格の悪い社員」が起こすのではありません。真面目で責任感の強い社員でも、プレッシャーと「機会」が重なれば、誰でも不正に踏み出すリスクがあります。これが人間の弱さを前提とした「性弱説」の本質です。
- 内部不正は「機会」があれば誰でも起こしうる——仕組みでその機会をなくすことが経営者の役割
- アクセス権限の最小化・ログ管理・複数承認制が内部不正防止の3本柱
- 「守るための管理」は、社員の信頼を損なうのではなく、安心して働ける環境をつくる
「社員を信じる」と「仕組みで守る」は矛盾しません。信頼できる社員だからこそ、魔が差すような状況に追い込まれないよう、会社が守ってあげる——それが今の経営者に求められる姿勢です。
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参考・出典
- IPA(情報処理推進機構)「組織における内部不正防止ガイドライン 第5版」(2022年):https://www.ipa.go.jp/security/guide/insider.html
- IPA(情報処理推進機構)「情報セキュリティ10大脅威 2024」:https://www.ipa.go.jp/security/10threats/10threats2024.html
本コラムの内容は2026年5月時点の情報に基づきます。制度・要件等は変更される場合がありますので、最新情報は各機関の公式サイトまたは当社へご確認ください。


