令和9年度概算要求基準で中小企業の補助金はどう変わる?「強く豊かな日本」投資枠と審査基準の転換【2026年8月最新】
2026年7月30日、政府は令和9年度(2027年度)予算の概算要求に当たっての基本的な方針を閣議了解しました。最大の特徴は、通常歳出とは別枠で「強く豊かな日本」投資枠を創設し、この枠には要求上限(シーリング)を設けないという点です。片山さつき財務大臣は同日の会見で、各省庁が必要とする額を要求できる仕組みが整ったとして「もはやシーリングと呼ぶべきものはありません」と述べました。
戦後の予算編成を長く規律してきた「上限」の考え方が、成長分野については外れました。ただし中小企業の経営者の皆様にとって重要なのは、その先です。7月21日に閣議決定された「日本成長戦略」には、中小企業向け補助金の設計をどう変えるかが、すでにかなり具体的に書き込まれています。本稿では、概算要求基準と成長戦略を突き合わせ、実務判断に必要な範囲で整理します。
結論:中小企業が備えるべき3つの変化とは
| 変化点 | 内容 | |
|---|---|---|
| 1 | 補正予算依存からの脱却 | 補助金の公募時期が前倒し・安定化する可能性。投資計画を年度単位で組みやすくなる。 |
| 2 | 補助金・基金の洗い直し | すべてが増えるわけではない。投資を呼び込む効果が乏しい予算は見直すと明記されている。 |
| 3 | 審査基準の転換 | 賃上げの実績を評価に織り込む方針が閣議決定文書に明記。AX投資への傾斜も。 |
令和9年度概算要求基準とは何か
概算要求基準とは、各府省庁が翌年度予算の要求額を財務省に提出する際の共通ルールを定めた文書です。毎年夏に閣議了解され、各省庁はこれに沿って8月末を期限に要求書を作成します。その後、秋から年末にかけての予算編成過程を経て政府案が閣議決定され、年明けの国会審議を経て当初予算として執行されます。
つまり、いま公表された基準は、およそ1年半後に中小企業が実際に手にする補助金の「設計図の設計図」のようなものです。
今回の基準で示された主な柱は次のとおりです。
●「強く豊かな日本」投資枠の創設
通常歳出とは別枠。要求上限を設けず、金額を確定させない「事項要求」も含め、所要額を要求できる。
●補正予算依存からの脱却
当初予算での措置を要する恒常的な施策は、当初予算に寄せていく方針。
●歳出全般の優先順位の洗い直し
各省庁が補助金や基金を自ら点検し、その結果を要求額に反映させたうえで、予算編成の過程で改めて精査する。
●年金・医療等:前年度当初予算額に高齢化等に伴ういわゆる自然増を加算した範囲内で要求。経済・物価動向等を踏まえた増加分は、予算編成過程で加算される見込み。
令和9年度予算は、高市内閣にとって概算要求基準の段階から一貫して編成する初めての予算にあたります。
「強く豊かな日本」投資枠とは何か?
「強く豊かな日本」投資枠は、危機管理投資・成長投資をはじめ、国内投資を通じて潜在成長率の引上げにつながる施策を対象とする予算枠です。骨太方針2026と日本成長戦略(いずれも2026年7月21日閣議決定)で創設方針が示され、7月30日の概算要求基準で具体化されました。
制度設計上、注目すべき点が3つあります。
第一に、複数年度計画が基本とされていること。単年度主義に縛られず、複数年度の計画に基づいて予算措置を行う方針が示されています。設備投資の意思決定サイクルと国の支援サイクルが噛み合いやすくなります。
第二に、経済安全保障上とくに重要な分野は特別会計で別枠管理とし、償還財源の裏付けのあるつなぎ国債の発行によって規模を確保するとされていること。
第三に、投資を呼び込む効果が乏しいと判断された予算は、途中でも見直すとされていること。上限が外れることと、査定が甘くなることは別だという設計思想が読み取れます。
背景にあるのが日本成長戦略です。
政府はAI・半導体、デジタル・サイバーセキュリティ、情報通信、量子、防衛産業、航空・宇宙、海洋、造船、マテリアル(重要鉱物・部素材)、合成生物学・バイオ、創薬・先端医療、資源・エネルギー安全保障・GX、フュージョンエネルギー、防災・国土強靱化、港湾ロジスティクス、フードテック、コンテンツという17の戦略分野を選定し、62の主要な製品・技術等について官民投資ロードマップを策定しました。2040年度までに想定される官民の国内投資は累計370兆円超、国内民間設備投資については2040年度250兆円が新たな官民目標に位置づけられています。
17分野の主役は大企業でも、その供給網の大半は中小企業です。実際、成長戦略の本文でも、経済安全保障の観点から製造基盤を支える「エコシステム」の要素として中堅・中小企業が明記されています。
実務への影響①:補助金の「公募カレンダー」が変わるかもしれない
中小企業の実務にとって、今回もっとも影響が大きいのは補正予算依存の見直しです。
これまで、中小企業向けの主要な補助金は当初予算ではなく補正予算を主な財源としてきました。その規模差は明確です。財務省の令和8年度予算資料によれば、令和7年度補正予算の中小企業対策費は8,844億円(一般会計全体)。一方、令和7年度当初予算の中小企業対策費は1,080億円で、実に8倍の開きがあります。
この構造から、従来「秋に経済対策 → 年末に補正予算成立 → 年明け以降に公募開始」というサイクルが定着し、当初予算の段階では翌年度の実施が読めない状態が常態化していました。
恒常的な施策を当初予算に寄せる方針が実現すれば、この構図は変わります。年度当初から予算が措置されていれば公募開始が前倒しになり、投資枠の複数年度計画と組み合わさることで、複数年にわたる見通しも立てやすくなります。
ただし、当初予算に移ること自体は予算規模の保証を意味しません。上記の8倍という差がそのまま当初予算に移るかどうかは、年末の予算編成の結果次第です。実務上は、2027年度の投資について「春に公募が始まる可能性がある」前提でも動けるよう、社内体制の整備を前倒しするのが合理的です。
実務への影響②:補助金・基金は「洗い直し」の対象になる
「上限が外れる」を「制度全体が緩む」と読むのは誤りです。
片山財務大臣は会見で、補助金や基金の見直しをはじめ、歳出全般にわたって施策の優先順位を洗い直し、予算の中身を大胆に重点化する方針を示しました。基金については、会計検査院等からの指摘を踏まえて結論を出す考えにも言及しています。概算要求基準にも、補助金・基金の自己点検結果を要求・要望に反映し、予算編成過程で精査する旨が盛り込まれています。
中小企業向けの補助金も例外ではありません。「いま使える補助金が来年も同じ形であるとは限らない」という前提は、これまで以上に強く意識すべきです。
実際、2026年度にはすでに大きな再編が起きています。ものづくり補助金と新事業進出補助金は統合され、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金として実施されています。IT導入補助金もデジタル化・AI導入補助金2026へと姿を変えました。制度は名称ごと入れ替わり得る、という実例です。
実務への影響③:審査基準そのものが変わる
ここが今回、他の解説記事が見落としがちな最重要ポイントです。日本成長戦略の本文には、中小企業向け補助金の運用方針が4つの角度から書き込まれています。要点を整理すると次のとおりです。
①賃上げの実績が審査対象に?
生産性向上を支援する補助金について、申請時点までにどれだけ賃上げしているかを審査・評価に織り込む方向で制度を見直す。賃上げを後回しにさせない、という設計意図です。
②AX投資への傾斜
中堅・中小企業を対象とする補助金では、AI活用による事業変革(AX)に向けた投資を優先的に後押しする。
③戦略17分野につながる取り組みを重視
新事業への進出や新製品・新サービスの開発を支える枠組みの中で、17分野につながる取組を厚めに支援する。
④省力化支援は継続
中小企業省力化投資補助金、デジタル化・AI導入補助金、業務改善助成金といった既存の支援策を引き続き活用しやすくしていく。
あわせて成長戦略は、従業員1人当たりの付加価値額について、2030年度までの5年間で15%引き上げるという数値目標を掲げています。
従来の補助金申請では「これから賃上げします」という計画を書けば足りる場面が多くありました。今後は足元の賃上げ実績が評価対象になり得るということです。加えて、自社の投資をAX・省力化・戦略分野への取り組みという文脈で説明できるかが、採択の分かれ目になっていきます。
経営者・経営企画担当の皆様が今からやるべき3つのこと
今後のスケジュールは、おおむね次のように進みます。
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2026年8月末 | 各府省庁が概算要求を財務省へ提出・公表 |
| 2026年秋 | 予算編成過程、税制改正の議論 |
| 2026年12月頃 | 政府予算案の閣議決定 |
| 2027年1〜3月 | 国会審議 |
| 2027年4月〜 | 当初予算の執行・各種公募の開始 |
※令和8年度予算は国会日程の影響で暫定予算を挟み4月成立となりました。年度当初からの執行は確定ではありません。
(1)8月末公表の概算要求を必ず確認する
中小企業庁は例年8月末に「中小企業・小規模事業者・地域経済関係 概算要求等ポイント」を公表します。ここには個別の補助金名がそのまま並ぶわけではなく、政策目的ごとの事業名(箱)で示される点に注意が必要です。自社が使っている補助金がどの箱に入っているか、その箱の要求額が前年度からどう動いたかを見ることで、翌年度の方向性を早期に読み取れます。
(2)賃上げの実績を作りに行く
審査に賃上げ状況が反映されるなら、申請の直前に慌てても間に合いません。2027年度の申請を視野に入れるなら、2026年度内の昇給・賞与の設計から逆算する必要があります。給与支給総額の推移が説明できる状態を、いまのうちに整えておくべきです。
(3)投資計画をAX・戦略分野の言語に翻訳する
「生産性を上げる」だけでは弱くなります。自社の投資がAIやデータ活用をどう組み込むのか、17分野の供給網のどこにあたるのか。この整理は公募要領が出てからでは間に合いません。
よくある質問(FAQ)
Q1. 概算要求基準が変わると、中小企業向け補助金の予算はすぐ増えるのですか?
A1. いいえ。概算要求基準は各省庁が「要求できるルール」を定めたものであり、要求額がそのまま予算になるわけではありません。実際の金額は、年末の予算編成と翌年の国会審議を経て確定します。
Q2. ものづくり補助金やIT導入補助金は、いまも使えるのですか?
A2. 名称と制度が変わっています。ものづくり補助金は新事業進出補助金と統合され、2026年度から新事業進出・ものづくり商業サービス補助金として実施されています。IT導入補助金はデジタル化・AI導入補助金2026に移行しました。旧制度とは別の補助金として設計されているため、要件を旧制度の感覚で判断しないよう注意が必要です。
Q3. 「強く豊かな日本」投資枠は中小企業も対象になりますか?
A3. 枠そのものは特定の企業規模を対象としたものではなく、国内投資を通じた潜在成長率の引上げにつながる施策を対象としています。ただし日本成長戦略の本文には中堅・中小企業向け補助金でのAX投資の重点支援が明記されており、中小企業支援がこの流れの中に位置づけられていることは読み取れます。具体的な措置は8月末の各省要求以降に明らかになります。
Q4. 具体的な補助金メニューはいつ分かりますか?
A4. 概算要求ベースの方向性は2026年8月末、政府案としての金額は2026年12月頃、公募要領などの詳細は2027年春以降が目安です。
Q5. 補正予算はもう組まれなくなるのですか?
A5. 補正予算そのものが否定されたわけではなく、恒常的な施策については当初予算に寄せる、という方針です。災害対応など機動的な措置の余地は残されています。
まとめ
令和9年度概算要求基準は、成長分野について要求上限を外す一方、投資効果の薄い予算は見直すとしています。いわば、アクセルとブレーキを同時に踏み分ける構造です。
中小企業経営者の皆様にとっての実務的な示唆は3つ。
第一に、公募の前倒しに備えて準備を早める。
第二に、制度は名称ごと入れ替わり得ると考える。
第三に、賃上げの実績とAX・戦略分野への取り組みを、いまから積み上げにいく。
予算は、決まってから追いかけるものではなく、決まる過程を読んで先回りするものです。8月末の概算要求が、その最初の分岐点になります。
本稿は2026年8月時点の公表情報(財務省「令和9年度予算の概算要求に当たっての基本的な方針について」および同日の大臣記者会見、内閣官房「日本成長戦略」、内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2026」、財務省「令和8年度予算のポイント」等)に基づいて執筆しています。制度の詳細は今後の予算編成過程で変更される可能性があるため、実際の申請にあたっては最新の公募要領をご確認ください。







