【サイバーセキュリティ】取引先からセキュリティ対策の説明を求められたら ― 中小企業の対応マニュアル
~「御社のセキュリティ対策について教えてください」と言われて困らないために~
ある日突然、取引先の大手企業から「セキュリティ対策の状況について回答してください」というメールが届く。添付されているのは数十項目にわたるセキュリティチェックシート。何をどう書けばいいかわからず、情シス担当者が頭を抱える――。
こうしたケースが急増しています。背景にあるのは、サプライチェーン攻撃の脅威です。大企業を直接攻撃するのが難しいため、セキュリティ対策が手薄な取引先(中小企業)を踏み台にする攻撃が増えており、大企業側がサプライチェーン全体のセキュリティレベルを確認するようになったのです。
このコラムでは、取引先からセキュリティ対策の説明を求められたときの具体的な対応方法を解説します。
この記事でわかること
・取引先がセキュリティ対策の説明を求める背景と理由
・セキュリティチェックシートの典型的な質問項目と回答のコツ
・「何もやっていない」状態から最低限整備すべき対策
・サイバーセキュリティ対策促進助成金を活用した本格的な対策の進め方
1. なぜ取引先がセキュリティ対策の説明を求めるようになったのか
サプライチェーン攻撃の急増
IPA(情報処理推進機構)が毎年発表する「情報セキュリティ10大脅威」では、「サプライチェーンの弱点を悪用した攻撃」が上位にランクインし続けています。攻撃者は、セキュリティ対策が堅固な大企業を直接狙う代わりに、取引先の中小企業を踏み台として侵入する手法を多用しています。
実際に、中小企業がランサムウェアに感染し、そこから取引先の大企業にマルウェアが拡散した事例が国内でも報告されています。
経済産業省のガイドラインによる後押し
経済産業省の「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」では、サプライチェーン全体のセキュリティ対策を経営者の責務として明記しています。これを受けて、大企業は取引先のセキュリティ状況を定期的に確認する動きを強めています。
取引継続の条件になりつつある
一部の大企業では、セキュリティ対策の水準が基準に満たない取引先との取引を制限・停止する方針を打ち出しています。「セキュリティ対策の説明を求められている」ということは、裏を返せば「適切に対応できれば取引を継続・拡大できる」チャンスでもあるのです。
2. セキュリティチェックシートの典型的な質問項目と回答のコツ
取引先から届くセキュリティチェックシートには、企業ごとにさまざまな形式がありますが、質問項目には共通するパターンがあります。
典型的な質問カテゴリ
| 質問カテゴリ | 質問例 | 求められている対策 |
|---|---|---|
| 組織体制 | 「情報セキュリティの責任者は誰ですか?」 | セキュリティ責任者の任命 |
| ポリシー・規程 | 「情報セキュリティポリシーを策定していますか?」 | セキュリティ基本方針の文書化 |
| ネットワーク対策 | 「ファイアウォールやUTMを導入していますか?」 | ネットワーク境界の防御 |
| 端末対策 | 「ウイルス対策ソフトを全端末に導入していますか?」 | EPPまたはEDRの導入 |
| アクセス制御 | 「パスワードポリシーを定めていますか?」 | パスワードの長さ・複雑さ・変更頻度のルール |
| データ保護 | 「バックアップを定期的に実施していますか?」 | バックアップの自動化と世代管理 |
| 社員教育 | 「従業員向けセキュリティ教育を実施していますか?」 | 定期的なセキュリティ研修の実施 |
| インシデント対応 | 「セキュリティインシデント発生時の対応手順がありますか?」 | インシデント対応マニュアルの整備 |
回答のコツ:5つの原則
1. 正直に回答する:対策していないことを「対策済み」と嘘をつくのは厳禁です。インシデント発生時に虚偽が発覚すれば、取引停止どころか損害賠償のリスクもあります
2. 「未対策」の場合は改善計画を添える:「現在は未対策ですが、○月までに○○を導入する計画です」と記載することで、前向きな姿勢を示せます
3. 具体的な製品名・サービス名を記載する:「ウイルス対策ソフトを導入済み」だけでなく、「○○社の△△を全端末(30台)に導入済み」と具体的に書く
4. 根拠資料を用意する:SECURITY ACTION二つ星のロゴマーク、情報セキュリティ基本方針の文書などを添付できると信頼度が上がります
5. わからない質問は専門家に相談する:技術的な質問で回答に迷う場合は、推測で答えずに専門家に確認しましょう
セキュリティチェックシートの回答に困った場合は、リモートセキュリティ顧問サービス(月額5万円〜)をご活用ください。チェックシートの回答支援は、リモートセキュリティ顧問の主要な業務のひとつです。
3. 「何もやっていない」状態から最低限整備すべき対策
「正直に言うと、うちはほとんど何もやっていない。どこから手をつければいいの?」という企業のために、最低限整備すべき対策を5つのステップで整理します。
ステップ1:SECURITY ACTION二つ星を宣言する
IPAが提供するSECURITY ACTIONは、中小企業の情報セキュリティ対策の出発点として最適です。二つ星を取得するには、「5分でできる!情報セキュリティ自社診断」の実施と情報セキュリティ基本方針の策定が必要です。
二つ星のロゴマークは、取引先に「最低限のセキュリティ対策に取り組んでいる」ことを示す証拠になります。また、サイバーセキュリティ対策促進助成金の申請要件にもなっていますので、今後の対策強化への布石にもなります。
ステップ2:ウイルス対策ソフト(EPP)を全端末に導入する
社内のすべてのPC・サーバーにウイルス対策ソフトを導入し、自動更新を有効にすることが基本中の基本です。Windows標準のWindows Defenderでも一定の効果はありますが、法人向けのEPP製品に切り替えることで、一括管理やログの可視化が可能になります。
ステップ3:バックアップ体制を整備する
ランサムウェアに感染した場合、バックアップがなければデータを失います。3-2-1ルール(3つのコピー、2種類のメディア、1つはオフサイト保管)に沿ったバックアップ体制を構築しましょう。
ステップ4:パスワードポリシーを策定する
パスワードの最低文字数、複雑さの要件、使い回しの禁止などを文書化し、全社員に周知します。可能であれば多要素認証(MFA)の導入も検討してください。
ステップ5:従業員向けセキュリティ教育を実施する
技術的な対策だけでは不十分です。フィッシングメールの見分け方、不審なファイルの取り扱い、インシデント発生時の報告手順など、全社員が知っておくべき基礎知識を教育で伝えましょう。
セキュリティ教育・研修サービスでは、最新の攻撃事例を使った実践的な研修を1回8万円(税別)から提供しています。
4. サイバーセキュリティ対策促進助成金を活用して本格的な対策を進める
取引先からの要求をきっかけに本格的なセキュリティ対策に取り組むなら、サイバーセキュリティ対策促進助成金の活用を強くお勧めします。
サイバーセキュリティ対策促進助成金の概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 助成率 | 対象経費の1/2以内 |
| 助成限度額 | 最大1,500万円 |
| 対象 | 都内中小企業のセキュリティ機器・サービス導入費 |
| 申請要件 | SECURITY ACTION二つ星宣言済み、GビズIDプライム取得済み |
取引先の要求に応えるために必要な対策(UTM、EDR、バックアップ等)の導入費用を、サイバーセキュリティ対策促進助成金で半額にできます。「取引先に言われて仕方なく対策する」のではなく、「助成金を活用して自社のセキュリティを一気にレベルアップする」と前向きに捉えましょう。
取引先対応とサイバーセキュリティ対策促進助成金を組み合わせたロードマップ
| 時期 | やること | 取引先への回答 |
|---|---|---|
| 即座に | SECURITY ACTION二つ星取得、GビズIDプライム申請 | 「二つ星を取得済み。追加対策を計画中」 |
| 1〜2か月後 | サイバーセキュリティ対策促進助成金に申請 | 「助成金を活用し、UTM・EDR等の導入を予定」 |
| 3〜4か月後 | 採択後、機器・サービスを導入 | 「UTM・EDRを導入し、ネットワーク監視体制を構築済み」 |
| 5〜6か月後 | 社員教育の実施、運用体制の確立 | 「全社員向け研修を実施。インシデント対応手順も整備済み」 |
サイバーセキュリティ対策促進助成金の申請からセキュリティ体制の構築まで一貫して支援を受けたい場合は、サイバーセキュリティ対策促進助成金 申請サポートサービスをご利用ください。
5. 継続的な対策と体制づくり
取引先のセキュリティチェックは、一度対応すれば終わりではありません。多くの企業が年1回以上の定期確認を行っており、対策の継続的な維持・改善が求められます。
セキュリティ責任者を社内に置く
規模が小さくても、セキュリティに関する社内の窓口となる担当者を1名決めておきましょう。取引先からの問い合わせ対応、インシデント発生時の初動、対策の見直しなどを担当します。
外部の専門家を「常時相談できる存在」として確保する
社内にセキュリティの専門家がいない場合は、外部の専門家を常時相談できる体制として確保しておくことが現実的です。
セキュリティ伴走コンサルティング(vCISO)(月額30万円〜)であれば、セキュリティ責任者の代わりとして月1回以上の定例で対策を推進できます。もう少し手軽に始めたい場合は、リモートセキュリティ顧問(月額5万円〜)が日常的な相談窓口として活用できます。
まとめ
取引先からセキュリティ対策の説明を求められることは、脅威であると同時にチャンスでもあります。
・正直に回答し、未対策の項目には改善計画を添える
・最低限の対策としてSECURITY ACTION二つ星、EPP、バックアップ、パスワードポリシー、社員教育から始める
・サイバーセキュリティ対策促進助成金を活用すれば、本格的な対策を費用半額で実現できる
・一度きりの対応ではなく、継続的な維持・改善の体制を構築する
・チェックシートの回答や対策の判断に迷ったら、セキュリティの専門家に相談する
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参考・出典
・IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」 https://www.ipa.go.jp/security/10threats/
・経済産業省「サイバーセキュリティ経営ガイドライン Ver3.0」 https://www.meti.go.jp/policy/netsecurity/mng_guide.html
・IPA「SECURITY ACTION」制度紹介ページ https://www.ipa.go.jp/security/security-action/
・東京都中小企業振興公社「サイバーセキュリティ対策促進助成金」公式ページ







