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【サイバーセキュリティ】「従業員がフィッシングメールを開いてしまう」がなくなる ― 企業ができる実践的な防止策


「社員がフィッシングメールを開いてしまったらしいのですが、どうすればいいですか?」

アクセルパートナーズが中小企業の経営者・情シス担当者から受ける相談の中で、年々増え続けているのがこの質問です。IPAの「情報セキュリティ10大脅威2025」では、フィッシングによる個人情報等の詐取が組織向け脅威の上位にランクインし続けています。実際、警察庁の発表によると、2024年のフィッシング報告件数は約171万件に達し、前年比で約30%増加しました。

しかし、多くの企業ではいまだに「怪しいメールは開かないように」という口頭注意だけで済ませているのが現実です。

このコラムを読み終えたとき、あなたは「従業員個人の注意力に頼らず、組織全体でフィッシングを防ぐ仕組み」を構築する具体的な手順が見えている状態になっています。

目次

この記事でわかること

  • フィッシングメール対策で多くの企業が陥っている「5つの落とし穴」
  • 組織的な防御で成果を出している企業の共通点
  • 「技術×人×ルール」の3層で守るフィッシング対策フレームワーク
  • 明日から始められる実践的な導入ステップ

1. 良かれと思ってやっている「5つの誤ったフィッシングメール対策」

フィッシングメールの脅威を認識し、何らかの対策を講じている企業は増えています。しかし、その対策が「やっているつもり」で終わっているケースが非常に多いのが実態です。

ここでは、多くの中小企業が良かれと思ってやってしまっている5つの典型的なパターンをご紹介します。あなたの会社にも当てはまるものがないか、確認してみてください。

誤り①:良かれと思って「怪しいメールは開かないで」と口頭注意だけしている

「フィッシングメールには気をつけてください」と朝礼や会議で伝える。経営者としてできることはやった ―― そう感じるのは自然なことです。

しかし、2024年のフィッシング対策協議会の報告によると、最近のフィッシングメールの約80%は、正規のサービス(銀行、配送業者、クラウドサービスなど)を精巧に模倣しています。件名も本文も、プロが見ても一瞬では区別がつかないレベルにまで巧妙化しています。

「怪しいメールは開かないで」という指示は、「怪しく見えないメール」が大量に届いている現状では、ほぼ機能しません。口頭注意だけに頼ることは、従業員に「見分けられなかった自分が悪い」という罪悪感を与えるだけで、組織としての防御力向上にはつながりません。

誤り②:良かれと思って迷惑メールフィルターだけに頼っている

「うちはメールサーバーに迷惑メールフィルターが入っているから大丈夫」。この判断は、一見合理的に思えます。

確かに、迷惑メールフィルターは大量のスパムメールを自動で弾いてくれます。しかし、フィッシングメールは迷惑メールフィルターをすり抜けるように設計されています。正規のドメインに酷似したドメインを使い、HTMLの構造も正規メールをコピーし、SPF(送信ドメイン認証)やDKIM(メール署名認証)といった技術的な検証もクリアするように作り込まれているのです。

IPAの調査によると、標的型攻撃メールの約70%が既存のセキュリティ対策を回避して着弾しています。迷惑メールフィルターは「必要な対策のひとつ」ではありますが、「それだけで十分な対策」ではありません。

誤り③:良かれと思ってフィッシング訓練を1回やって終わりにしている

「去年フィッシング訓練をやったので、うちの社員は大丈夫です」。これも多くの企業で見られるパターンです。

しかし、フィッシングの手口は数か月単位で変化します。2023年に主流だった「宅配不在通知型」は、2024年には「クラウドサービスのセキュリティアラート型」に変わり、2025年以降はAIを活用した個別カスタマイズ型のフィッシングが急増しています。

1回の訓練で学んだ「見分け方」は、数か月後には通用しなくなっている可能性が高いのです。セキュリティ意識は筋力と同じで、継続的に鍛え続けなければ衰えます。年に1回の訓練は「やらないよりマシ」ではありますが、「十分」とは言えません。

誤り④:良かれと思ってフィッシングに引っかかった社員を叱責している

「あれだけ注意したのに、なぜ引っかかったんだ」。従業員がフィッシングメールのリンクをクリックしてしまったとき、こう言いたくなる気持ちは理解できます。

しかし、叱責は最も逆効果な対応です。叱責された従業員は、次に不審なメールを受け取ったとき、「また怒られるかもしれない」という恐れから、クリックしてしまったことを隠すようになります。

セキュリティインシデントにおいて、初動の速さが被害の規模を決定的に左右します。クリックしてしまったことを5分以内に報告できれば、パスワードの変更やアカウントの凍結で被害を最小限に抑えられます。しかし、報告が数時間、あるいは数日遅れれば、攻撃者はその間に社内ネットワークへの侵入を拡大します。

叱責の文化は、報告の遅延を生み、被害を拡大させる「隠れたリスク要因」なのです。

誤り⑤:良かれと思って「URLを目視確認すれば大丈夫」と教育している

「リンクをクリックする前に、URLを確認してください」。多くの企業がこのように教育しています。

しかし、近年のフィッシングURLは目視確認をすり抜けるように巧妙に設計されています。正規ドメインの1文字だけを変えたもの(例:「microsoft.com」→「rnicrosoft.com」)、正規ドメインをサブドメインに組み込んだもの(例:「microsoft.com.attacker.com」)、短縮URLを使って本来のドメインを隠したものなど、目視だけでは判別が困難なパターンが増え続けています。

さらに、スマートフォンでメールを確認する従業員が増えている現在、小さな画面ではURLの全体が表示されないことも多く、目視確認そのものが難しい環境になっています。

URL確認は「やらないよりはいい」ですが、それだけを「対策」として教育するのは不十分です。

2. フィッシング対策で成果を出している企業の3つの共通点

では、フィッシングメールによる被害を効果的に防いでいる企業は、何が違うのでしょうか。アクセルパートナーズがこれまで支援してきた企業の中から、共通する3つの特徴をお伝えします。

焦点:「個人の注意力」ではなく「組織の仕組み」に目を向けている

フィッシング対策がうまくいっている企業は、「従業員一人ひとりが気をつける」ことに過度に期待していません。代わりに、「誰かが間違えても、被害が広がらない仕組み」を整えることに注力しています。

具体的には、以下の3つの視点でフィッシング対策を設計しています。

視点 考え方
技術的防御 フィッシングメールが届く前にブロックする仕組み
人的防御 届いてしまったメールを見分け、正しく対処する力
組織的防御 万が一クリックしてしまっても被害を最小限にする体制

この3つの視点を「どれかひとつ」ではなく「すべて」組み合わせているのが、成果を出している企業の最大の共通点です。

人は必ず間違えます。100人の従業員がいれば、どれだけ訓練しても誰か1人はクリックしてしまう可能性があります。その「1人がクリックした瞬間」に組織全体が崩壊しないためには、技術と人と仕組みの3層で守る必要があるのです。

行動:「教える」だけでなく「体験させる」アプローチを取っている

フィッシング対策がうまくいっている企業は、座学の研修だけで終わらせていません。定期的な模擬フィッシング訓練を実施し、従業員に「本物に近い体験」をさせています。

重要なのは、訓練の目的を「引っかかった人を見つけること」ではなく、「引っかかったときに正しく行動できるかを確認すること」に設定していることです。

ある製造業の企業(従業員約50名)では、四半期に1回の模擬フィッシング訓練を実施しています。初回の訓練では約30%の従業員がリンクをクリックしましたが、1年後にはクリック率が5%以下に低下しました。さらに重要なのは、クリックしてしまった従業員の報告時間が平均45分から平均3分に短縮されたことです。

この企業では、訓練後に「今回のフィッシングメールにはこういう特徴がありました」というフィードバックを全社に共有し、引っかかった従業員を叱責するのではなく「気づいて報告できた人を称賛する」文化を意識的に作っています。

量:「1回の大きな投資」ではなく「小さな改善の積み重ね」で進めている

フィッシング対策で成果を出している企業は、最初から完璧な体制を構築しようとはしていません。小さな施策を段階的に導入し、その効果を測定しながら次のステップに進むというアプローチを取っています。

たとえば、以下のような段階的なステップで進めている企業が多く見られます。

ステップ 施策 費用目安
第1段階(1か月目) メール認証(SPF/DKIM/DMARC)の設定 無料〜月額数千円
第2段階(2〜3か月目) 多要素認証(MFA)の全社導入 1人あたり月額数百円
第3段階(4〜6か月目) 模擬フィッシング訓練の導入 年額10万〜30万円
第4段階(7か月目〜) メールセキュリティゲートウェイの強化 月額1万〜5万円

いきなり数百万円のセキュリティ製品を導入するのではなく、まず無料〜低コストでできることから始める。このアプローチが中小企業には最も現実的です。

3. 「技術×人×ルール」の3層で守るフィッシング対策フレームワーク

ここからは、フィッシング対策を体系的に進めるための実践フレームワークをご紹介します。このフレームワークは、「技術的対策」「人的対策」「ルール・文化の対策」の3層で構成されています。

第1層:技術的対策 ―― フィッシングメールを「届かせない」

技術的対策の目的は、フィッシングメールが従業員の受信トレイに届く前にブロックすることです。すべてを防ぐことはできませんが、大量の攻撃メールの大部分をここで止めることができます。

対策3-1:メール認証技術(SPF/DKIM/DMARC)の導入

SPF(Sender Policy Framework)、DKIM(DomainKeys Identified Mail)、DMARC(Domain-based Message Authentication, Reporting and Conformance)は、送信元メールアドレスの詐称(なりすまし)を検知・防止する技術です。

2024年2月以降、GoogleとYahoo!は大量メール送信者に対してDMARC設定を義務化しました。この流れを受けて、中小企業でも自社ドメインのメール認証設定を整備する動きが広がっています。

具体的に何をするかと言えば、自社のDNS(ドメインネームシステム)にSPF・DKIM・DMARCのレコードを追加するだけです。作業自体は30分〜1時間程度で完了し、多くのレンタルサーバーやクラウドメールサービスでは管理画面からGUI操作で設定できます。

技術 役割 設定の難易度
SPF 「このドメインからメールを送信できるサーバー」を指定 低(DNS設定のみ)
DKIM メールに電子署名を付与し、改ざんを検知 中(メールサーバー設定が必要)
DMARC SPF/DKIMの検証結果に基づく処理ルールを定義 低(DNS設定のみ)

費用は基本的に無料です。自社のメールが「なりすましに使われる」リスクを防ぐとともに、外部からのなりすましメールを検知する効果があります。

対策3-2:多要素認証(MFA)の全社導入

多要素認証(Multi-Factor Authentication)は、パスワードに加えてもう1つの認証要素(スマートフォンアプリの確認コード、指紋認証など)を要求する仕組みです。

フィッシングメールの最終的な目的は、多くの場合、ID・パスワードの窃取です。従業員がフィッシングサイトにパスワードを入力してしまったとしても、多要素認証が有効であれば、攻撃者はパスワードだけではログインできません。

Microsoftの調査によると、多要素認証を導入することで、アカウント侵害のリスクを99.9%低減できるとされています。

Microsoft 365、Google Workspaceなど、主要なクラウドサービスには多要素認証の機能が標準で搭載されています。追加費用なしで有効化できるケースがほとんどです。

設定手順はサービスごとに異なりますが、基本的には管理者画面から全ユーザーに対してMFAを強制適用するだけです。従業員にはスマートフォンに認証アプリ(Microsoft Authenticator、Google Authenticatorなど)をインストールしてもらいます。

対策3-3:メールセキュリティゲートウェイの強化

メールセキュリティゲートウェイは、受信メールをリアルタイムに分析し、フィッシングメールやマルウェア添付メールを自動的に検知・隔離するシステムです。

迷惑メールフィルターとの違いは、AIや機械学習を活用して、新しい攻撃パターンにも対応できる点です。従来の「既知のスパムパターンとの照合」だけでなく、メールの文面・送信元の振る舞い・リンク先の安全性などを総合的に評価します。

サービス 月額費用目安(1ユーザー) 特徴
Microsoft Defender for Office 365 約250〜750円 Microsoft 365ユーザーに最適
Proofpoint Essentials 約300〜500円 中小企業向けパッケージあり
Trend Micro Email Security 約200〜400円 日本語サポートが充実

月額数百円の投資で、フィッシングメールの着弾率を80〜95%削減できるとされています。

第2層:人的対策 ―― フィッシングメールに「だまされない」

技術的対策をどれだけ強化しても、すべてのフィッシングメールをブロックすることはできません。第2層の人的対策は、技術の網をすり抜けたメールに対して、従業員が正しく判断・行動できる力を養うものです。

対策3-4:定期的な模擬フィッシング訓練

模擬フィッシング訓練は、実際のフィッシングメールを模した訓練メールを従業員に送信し、その反応を測定・分析する取り組みです。

訓練を効果的に実施するためのポイントは以下の5つです。

ポイント1:頻度は四半期に1回以上

フィッシングの手口は数か月単位で変化するため、年に1回では不十分です。四半期に1回(年4回)以上の頻度で実施することが推奨されます。

ポイント2:訓練メールのパターンを毎回変える

同じパターンの訓練メールを繰り返しても効果は薄れます。「宅配便不在通知」「パスワード変更要求」「経理部からの請求書」「クラウドサービスのセキュリティアラート」など、毎回異なるシナリオを使います。

ポイント3:結果の集計と全社フィードバック

訓練後は、部署別・役職別のクリック率を集計し、全社に共有します。ただし、個人名を公表するのではなく、「今回の訓練メールの見分け方」を解説する形式にします。

ポイント4:引っかかった人を叱責しない

前述の通り、叱責は報告の遅延を生む最大の原因です。訓練の目的は「引っかかった人を見つける」ことではなく、「組織の防御力を測定し、改善する」ことです。

ポイント5:報告行動を評価する

「不審なメールを受け取ったら、開かずに情報システム部門に報告する」という行動を、訓練の中で明示的に評価・称賛します。

模擬フィッシング訓練サービスの費用は、従業員50名規模の企業で年間10万〜30万円程度です。IT導入補助金(最大補助率1/2〜4/5)を活用すれば、実質負担を大幅に軽減できます。

対策3-5:セキュリティ意識向上トレーニング(SAT)

セキュリティ意識向上トレーニング(Security Awareness Training)は、フィッシングに限らず、サイバーセキュリティ全般に関する知識と行動を従業員に教育するプログラムです。

効果的なSATの特徴は、「座学で知識を詰め込む」のではなく、短時間の動画やクイズ形式で、日常業務の中に自然に組み込むことです。

SATサービス 月額費用目安 特徴
KnowBe4 1人あたり約200〜400円 模擬フィッシング訓練との連携が強力
Proofpoint SAT 1人あたり約300〜500円 日本語コンテンツが充実
JPCERT/CC教材 無料 基本的な内容を無料で学習可能

第3層:ルール・文化の対策 ―― フィッシング被害を「最小化する」

第3層は、万が一フィッシングに引っかかってしまった場合に、被害を最小限に抑えるための仕組みづくりです。

対策3-6:インシデント報告ルールの整備

フィッシングメールのリンクをクリックしてしまった、添付ファイルを開いてしまった ―― そのような事態が発生したときに、「誰に」「何を」「どのように」報告するかを明文化し、全従業員に周知します。

効果的な報告ルールの要素は以下の通りです。

  • 報告先:情報システム部門(または外部の管理会社)の連絡先を全従業員が即座に確認できる場所に掲示
  • 報告内容:「いつ」「何をした」「どのメールに対して」の3点を簡潔に伝える
  • 報告期限:気づいた時点から5分以内を目標とする
  • 免責事項:報告したことで処分の対象にはならないことを明記する

この最後の「免責事項」が極めて重要です。「すぐに報告すれば処分しない」というルールを明文化することで、報告のハードルを下げ、初動対応を速めることができます。

対策3-7:「報告しやすい文化」の醸成

ルールを作るだけでは不十分です。従業員が心理的に報告しやすい職場環境を作ることが、フィッシング対策の最後のピースです。

具体的な施策としては、以下のようなものがあります。

  • 報告フォームの簡素化:メールクライアントに「不審メール報告ボタン」を設置する(Microsoft 365やGmailにはアドオンで追加可能)
  • 報告者への感謝の表明:不審メールを報告した従業員に対して、「報告ありがとうございます」と返答することを情報システム部門の標準対応にする
  • 好事例の共有:「Aさんが不審メールを報告してくれたおかげで、被害を未然に防げました」という事例を全社に共有する
  • 経営者自身が模範を示す:経営者自身がフィッシング訓練に参加し、その結果(引っかかった場合も含めて)を共有する

4. 導入ステップ:今日から始めるフィッシング対策ロードマップ

フレームワークの内容を理解した上で、では具体的にどの順番で何をすればいいのか。ここでは、中小企業が最小限のコストと工数で最大限の効果を得るための導入ステップをお伝えします。

ステップ1(今日〜1週間):現状把握と多要素認証の有効化

まず最初にやるべきことは、自社で利用しているクラウドサービスの多要素認証を有効化することです。

Microsoft 365、Google Workspace、Salesforce、freeeなど、主要なクラウドサービスにはすべて多要素認証機能が標準搭載されています。管理者画面から設定を変更するだけで、追加費用なしで有効化できます。

優先順位は以下の通りです。

  • メールサービス(Microsoft 365、Google Workspaceなど)―― フィッシングの主な標的
  • ファイル共有サービス(SharePoint、Google Drive、Dropboxなど)―― 機密情報の保管場所
  • 経理・人事系サービス(freee、マネーフォワード、SmartHRなど)―― 金融情報を扱う

多要素認証を全社に導入するだけで、フィッシングによるアカウント侵害のリスクを99.9%低減できます。費用対効果の面で、これ以上の対策はありません。

ステップ2(1〜2週間):メール認証の設定確認と強化

次に、自社ドメインのSPF・DKIM・DMARCの設定状況を確認します。

確認方法は簡単です。以下の無料ツールを使って、自社ドメインを入力するだけです。

  • MXToolbox(https://mxtoolbox.com/):SPF・DKIM・DMARCの設定状況を一括で確認
  • DMARC Analyzer:DMARCレポートの分析と可視化

確認した結果、設定されていない項目があれば、レンタルサーバーやメールサービスの管理画面から設定を追加します。不明な場合は、ホスティング会社やメールサービスのサポートに問い合わせれば、設定方法を案内してもらえます。

ステップ3(1か月目):インシデント報告ルールの策定と周知

多要素認証とメール認証で技術的な土台を固めたら、次は「フィッシングメールを受け取ったとき・クリックしてしまったときの報告ルール」を策定し、全従業員に周知します。

報告ルールは以下のテンプレートをベースに、自社の状況に合わせて調整してください。

【フィッシングメール報告ルール(テンプレート)】

1. 不審なメールを受け取ったとき
リンクをクリックせず、添付ファイルを開かない。情報システム担当(または外部管理会社)に「不審メールを受信した」と連絡する。

2. リンクをクリックしてしまった / 添付ファイルを開いてしまったとき
ただちに端末をネットワークから切断する(Wi-Fiを切る、LANケーブルを抜く)。情報システム担当に「いつ」「何をした」「どのメールに対して」を連絡する。報告期限:気づいた時点から5分以内

3. パスワードを入力してしまったとき
ただちに当該サービスのパスワードを変更する(別の端末から)。同じパスワードを使い回しているサービスがあれば、すべて変更する。

4. 免責事項
フィッシングメールへの対応を速やかに報告した場合、報告者を処分の対象としません。

このルールをA4用紙1枚にまとめ、全従業員のデスクに掲示する、またはグループウェアに固定表示する。これだけで、有事の際の初動対応が大幅に改善されます。

ステップ4(2〜3か月目):模擬フィッシング訓練の初回実施

報告ルールが浸透したタイミングで、最初の模擬フィッシング訓練を実施します。

初回の訓練で確認すべきポイントは以下の3つです。

  • クリック率:何%の従業員がリンクをクリックしたか
  • 報告率:何%の従業員が不審メールとして報告したか
  • 報告までの時間:クリックから報告までに何分かかったか

初回のクリック率は20〜30%程度が一般的です。この数字に一喜一憂する必要はありません。重要なのは、この数字を基準値として記録し、次回以降の訓練で改善度を測定することです。

模擬フィッシング訓練を自社で実施するのが難しい場合は、外部サービスの利用を検討してください。従業員50名規模の場合、年間10万〜30万円程度で利用できます。

ステップ5(4か月目〜):メールセキュリティの強化と継続的改善

基本的な対策が整った段階で、メールセキュリティゲートウェイの導入を検討します。

ここまでのステップ1〜4を実施していれば、すでにフィッシング対策の基盤は構築されています。メールセキュリティゲートウェイは、その基盤の上に追加する「さらなる防御層」です。

導入時のポイントは以下の通りです。

  • 既存のメール環境との互換性を確認する:Microsoft 365、Google Workspaceなど、自社のメール環境と連携できるサービスを選ぶ
  • 日本語メールの検知精度を確認する:英語圏のサービスは日本語フィッシングメールの検知精度が低いことがある
  • レポート機能の充実度を確認する:どのような攻撃がどれだけブロックされているかを可視化できるサービスを選ぶ

また、このタイミングで四半期ごとの模擬フィッシング訓練を年間スケジュールに組み込み、継続的な改善サイクルを回し始めます。

5. フィッシング対策の費用対効果 ―― 「コストをかけずに最大の効果を得る」方法

最後に、中小企業の経営者が最も気にされる費用についてお伝えします。

フィッシング対策は、「お金をかければかけるほど安全になる」というものではありません。正しい優先順位で対策を進めれば、最小限のコストで最大限の効果を得ることができます。

フィッシング対策の費用一覧(従業員50名の企業の場合)

対策 初期費用 月額費用 効果
多要素認証の有効化 0円 0円 アカウント侵害リスク99.9%減
SPF/DKIM/DMARC設定 0円 0円 なりすましメールの検知・防止
インシデント報告ルール策定 0円 0円 初動対応の迅速化
模擬フィッシング訓練(年4回) 0円 約1〜2.5万円 クリック率の継続的低下
メールセキュリティゲートウェイ 0円 約1〜5万円 フィッシング着弾率80〜95%減
セキュリティ意識向上トレーニング 0円 約1〜2万円 従業員のセキュリティリテラシー向上

上記の通り、最初の3つの対策は完全に無料です。多要素認証の有効化、メール認証の設定、報告ルールの策定 ―― この3つだけで、フィッシング対策の基盤は整います。

有料の対策についても、IT導入補助金(最大補助率4/5)を活用すれば、実質負担を大幅に軽減できます。たとえば、模擬フィッシング訓練(年額30万円)とメールセキュリティゲートウェイ(年額60万円)を合わせた年額90万円の投資も、補助金を活用すれば実質18万円程度で済む可能性があります。

一方、フィッシング被害に遭った場合のコスト

IPAおよびJNSA(日本ネットワークセキュリティ協会)の調査データをもとに、フィッシング被害に遭った場合の想定コストを整理します。

費目 想定コスト
フォレンジック調査(原因特定の専門調査) 300万〜1,000万円
システム復旧・再構築 100万〜500万円
事業中断による逸失利益 売上の数日〜数週間分
取引先・顧客への通知・対応費用 50万〜200万円
信用回復のための広報費用 50万〜300万円
個人情報漏洩時の損害賠償 1人あたり約3,000〜5,000円×件数

中小企業でも、1件のフィッシング被害で数百万〜数千万円のコストが発生する可能性があります。年間数十万円の対策投資は、このリスクに対する合理的な保険です。

まとめ:フィッシングメール対策は「個人の注意力」から「組織の仕組み」へ

フィッシングメール対策の本質は、「従業員一人ひとりの注意力に頼る」ことから「組織全体で防ぐ仕組みを作る」ことへの転換です。

今日から始められるアクションを改めて整理します。

  • 今日やること:自社のクラウドサービスの多要素認証を有効化する(無料)
  • 今週やること:自社ドメインのSPF/DKIM/DMARCの設定状況を確認する(無料)
  • 今月やること:フィッシングメールの報告ルールを策定し、全社に周知する(無料)
  • 3か月以内にやること:初回の模擬フィッシング訓練を実施する
  • 半年以内にやること:メールセキュリティゲートウェイの導入を検討する

最初の3つのアクションは、すべて無料で、今日から着手できます

「何から始めればいいかわからない」「自社の対策状況を専門家に見てもらいたい」という方は、まずは現状の確認から始めてみませんか。

アクセルパートナーズへのご相談

アクセルパートナーズでは、中小企業のフィッシングメール対策を「現状診断」から「訓練の実施」「ルール策定」まで一貫して支援しています。

  • 「多要素認証の設定方法がわからない」
  • 「模擬フィッシング訓練を導入したい」
  • 「自社のメールセキュリティの状況を診断してほしい」

このようなお悩みがあれば、お気軽にご相談ください。初回のご相談は無料です。

お問い合わせ先
電話:0120-659-057(平日9:00〜18:00)

IT導入補助金を活用したセキュリティ対策の導入支援も行っています。補助金の申請から導入後のフォローまで、伴走型でサポートいたします。

鴨居 陽介
この記事の編集: 鴨居 陽介
アクセルパートナーズ 取締役・中小企業診断士

国内Sier企業でシステムエンジニア、PM、研修講師、法人営業を経験。 人と組織の成長を支えるマネジメントに携わる。2023年 中小企業診断士登録。2025年 アクセルパートナーズの理念や行動指針に強く共感し、取締役として参画。

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