「中小企業者等」の判定を誤ると使えない|特定生産性向上設備等投資促進税制(大胆な投資促進税制)の対象法人と適用除外事業者の落とし穴【2026年最新版】
2026年7月31日、産業競争力強化法の改正にあわせて「特定生産性向上設備等投資促進税制(大胆な投資促進税制)」の申請受付が始まりました。建物まで含めて即時償却、または取得価額の7%(建物・建物附属設備・構築物は4%)の税額控除を選べる、久々に骨のある設備投資減税です。
ただし、この制度でまず確認すべきは投資額でも設備の種類でもありません。「自社が中小企業者等に当たるかどうか」です。ここで区分を読み違えると、投資下限額が5億円のつもりで組んだ計画が、実は35億円のラインで判定される、という事態が起こり得ます。本稿では、対象法人の考え方と、資本金1億円以下でも安心できない三つの落とし穴を、経営企画の実務目線で整理します。
結論:判定の順番は「区分 → 投資額 → 設備」
多くの解説は投資額の下限(35億円/5億円)から入りますが、実務の順番は逆です。
①自社は青色申告書を提出する法人か
②自社は「中小企業者等」に当たるか(=下限額が5億円か35億円か)
③その下限額を、投資計画の合計額で満たせるか
④個々の設備が対象資産・取得価額基準を満たすか
②を確定させないまま設備の積み上げを始めると、後戻りの工数が大きくなります。確認申請は経済産業大臣(実務上は本社所在地を管轄する経済産業局)に対して行い、確認を受けられるのは令和11年3月31日まで。確認日から5年以内に取得・事業供用した設備が措置の対象です。時間軸に余裕があるように見えて、区分判定でつまずくと一気に窮地に陥ります。
対象となる法人の基本ライン
制度の対象は、青色申告書を提出する法人です。業種による制限はなく、製造業だけでなく物流・卸売・サービス・情報通信など幅広い業種が入ります。一方で、国内にある自社の事業の用に供することが前提で、貸付けの用に供する設備は対象外です。よって、不動産賃貸を目的とした建物投資は、この制度の想定から外れると考えてください。
なお本税制は法人税の措置(租税特別措置法第42条の12の7)として創設されており、公表資料はいずれも適用対象者を「青色申告書を提出する法人」と説明しています。個人事業として設備投資を計画している場合は、まずこの点を管轄の経済産業局や顧問税理士に確認してください。
「中小企業者等」はどう判定されるか
投資下限額は、中小企業者等は5億円以上、それ以外の法人は35億円以上。この7倍の差が、中堅企業にとって決定的です。
租税特別措置法における「中小企業者」の一般的な考え方は、次のとおりです。
| 判定軸 | 中小企業者側の目安 |
|---|---|
| 資本金・出資金 | 1億円以下 |
| 資本または出資を有しない法人 | 常時使用する従業員数1,000人以下 |
| 農業協同組合等 | 中小企業者と並んで5億円側に位置づけられる |
ここまでは多くの経営者が把握しているところです。問題は、この形式基準を満たしていても中小企業者として扱われないケースが複数あることです。
落とし穴①:資本金1億円以下でも「みなし大企業」
親会社やグループ会社からの出資比率によっては、資本金1億円以下でも中小企業者から外れます。判定の考え方は、大規模法人に発行済株式等の2分の1以上を保有されている場合、または複数の大規模法人に合計で3分の2以上を保有されている場合です。いわゆる「みなし大企業」です。
ここでいう大規模法人には、資本金1億円超の法人のほか、資本または出資を有しない法人で常時使用する従業員数が1,000人を超えるもの、資本金5億円以上の大法人による完全支配関係下にある法人などが含まれます(中小企業投資育成株式会社は除かれます)。「親会社が上場企業かどうか」ではなく、資本金と支配関係で決まる点が要注意です。
実務で見落としが起きやすいのは、次のような場面です。
・事業承継の過程で持株会社を設立し、株主構成が変わった
・資本業務提携で大手企業から出資を受け入れた
・グループ内再編で、間接保有だった株式が直接保有に変わった
いずれも「税制の判定を変える意図はなかった」場面です。だからこそ危ない。株主名簿の状態が、そのまま投資下限額の水準を決めていると考えてください。
落とし穴②:好業績の中堅企業に効いてくる「適用除外事業者」
もう一つ、資本金基準を満たしていても扱いが変わり得るのが適用除外事業者です。その事業年度開始の日前3年以内に終了した各事業年度の所得金額の年平均額が15億円を超える法人が該当します。
ここで押さえておきたいのは、この論点がどの判定に効くのかを取り違えないことです。公表資料で明確なのは、次の一点です。
・本税制の適用対象者について、「中小企業者(適用除外事業者に該当するものを除く)または農業協同組合等以外の法人」には、後述する不適用措置の判定が課される
つまり、適用除外事業者に該当すると、少なくとも不適用措置の判定においては中小企業者として扱われず、大企業と同じ賃上げ・国内設備投資の要件を問われることになります。
一方、投資下限額(5億円/35億円)を定める確認基準は、公表資料では「中小企業者または農業協同組合等については5億円以上」と表現されており、適用除外事業者を除く旨の括弧書きは付されていません。この二つの記述は同じではないため、投資下限額の判定において適用除外事業者がどう扱われるかは、確認基準を定める省令および確認申請の手引きで必ず確認すべき論点です。
実務的な結論はシンプルです。
資本金5,000万円でも、直近数期の所得が高水準で推移している中堅企業は、「当然に中小企業者等として扱われる」と考えないこと。5億円台の設備投資を構想している企業ほど、計画着手前に管轄経済産業局と顧問税理士の双方に確認しておく価値があります。
落とし穴③:大企業側に回ると「不適用措置」の判定が待っている
中小企業者等以外の法人(=大企業)については、一定の事業年度で本税制そのものが使えなくなる仕組みが設けられています。判定の骨格は次のとおりです。
・当期の所得金額が前期の所得金額以下である事業年度は、原則としてこの判定の対象外です(ただし、その事業年度が設立事業年度または合併等事業年度に該当する場合は別の取扱いとなり、所得が前期以下でも判定に乗ります)
・判定に乗る事業年度では、以下のいずれかを満たさない場合、即時償却・税額控除の適用を受けられません
-継続雇用者給与等支給額が前年度比で1%以上増加していること
-国内設備投資額が当期償却費総額の30%を超えていること
※期末資本金10億円以上かつ従業員1,000人以上、または従業員2,000人超の法人は、上記が2%以上・40%超に引き上げられます。
なお、繰越税額控除制度はこの不適用措置の対象外とされています。賃上げと国内投資をセットで求める設計であり、業績が伸びている年ほど条件が問われる構造です。みなし大企業として中小企業者から外れれば、投資額のハードルが35億円に上がるうえ、賃上げ実績まで問われることになります。ここが「区分判定を最初にやるべき」最大の理由です。
判定は一度きりではない
見落とされがちですが、確認申請時に中小企業者等であっても、それで安泰ではありません。設備を取得して事業の用に供する年度は、確認日から最大5年先です。その間に、増資、資本業務提携、株主異動、そして業績の伸長が起こり得ます。
経営企画としては、投資計画の管理表に「資本金」「株主構成」「直近3期の所得の年平均額」を定点観測項目として組み込んでおくのが実務的です。設備の進捗管理だけを見ていると、税制側の前提が静かに崩れていることに気づけません。
いま作るべき「自社区分チェックシート」
次の7つの問いに答えられれば、本税制の土俵に上がれるかどうかの見当がつきます。「何を確認するか」「何を見れば分かるか」「その答えで何が決まるか」をセットで整理しておくと、税理士や経済産業局への相談が一気に具体的になります。
| 何を確認するか | 何を見るか | その答えで決まること |
|---|---|---|
| 青色申告の承認を受けているか | 法人税申告書 | 制度を使えるかどうかの大前提 |
| 期末の資本金・出資金はいくらか | 登記事項証明書・決算書 | 中小企業者に当たるかの入口 |
| 資本金1億円超の会社などから、株式の2分の1以上(複数社なら合計3分の2以上)を保有されていないか | 株主名簿 | みなし大企業に当たるかどうか |
| 直近3事業年度の所得金額の年平均額が15億円を超えていないか | 過去3期の申告書 | 適用除外事業者に当たるかどうか |
| 計画中の設備投資が合計でいくらになるか | 投資計画・稟議資料 | 5億円と35億円のどちらのラインで判定されるか |
| 貸付用の資産、本店・寄宿舎・福利厚生施設、事務用器具備品が混ざっていないか | 設備リスト | 対象外資産を除いた後の実質的な投資額 |
| 中古設備が混ざっていないか | 設備リスト・見積書 | 同上(取得等に中古資産の取得は含まれない) |
上の4行が「自社がどちらの区分か」、下の3行が「投資額をどう数えるか」に対応しています。この2ブロックが埋まれば、判断に必要な材料はほぼ揃います。
よくある質問(FAQ)
Q1. 特定生産性向上設備等投資促進税制の対象となる法人は?青色申告書を提出する法人です。業種の限定はなく、国内で自社の事業の用に供する設備が対象となります。貸付けの用に供する設備は対象外です。
Q2. 中小企業者等と大企業で何が違いますか? 投資計画に記載する設備の取得価額の合計額について、中小企業者等は5億円以上、それ以外の法人は35億円以上が必要です。さらに大企業側には、賃上げ・国内設備投資に関する不適用措置の判定が加わります。
Q3. 資本金1億円以下なら必ず中小企業者等ですか? そうとは限りません。大規模法人による株式保有比率が一定以上であれば、いわゆるみなし大企業として中小企業者から外れます。また、その事業年度開始の日前3年以内に終了した各事業年度の所得金額の年平均額が15億円を超える適用除外事業者に該当する場合、少なくとも不適用措置の判定においては中小企業者として扱われません。投資下限額の判定における取扱いは、確認基準を定める省令および確認申請の手引きでの確認が必要です。
Q4. 中小企業経営強化税制と併用できますか? 投資計画の期間内の各事業年度においては、中小企業経営強化税制、地域未来投資促進税制、カーボンニュートラルに向けた投資促進税制は適用できないとされています(中小企業経営強化税制の繰越税額控除制度は適用可能とされています)。どちらを選ぶかは、投資規模と実行時期から逆算した判断になります。
Q5. いつまでに何をすればよいですか? 令和11年3月31日までに経済産業大臣の確認を受け、確認日から5年以内に設備を取得して事業の用に供する必要があります。申請はGビズフォームからのオンライン提出で、GビズIDの準備が前提です。
まとめ:最初の30分は「投資額」ではなく「自社の区分」に使う
本税制は、建物を含めて即時償却が選べる稀有な制度です。だからこそ、使える土俵に立っているかどうかの確認が先にきます。資本金、株主構成、直近3期の所得—この3点を押さえずに設備リストから作り始めると、後で計画全体を組み直すことになりかねません。
「うちは5億円側か、35億円側か」。この一問に即答できないまま設備投資の意思決定に進むのは、経営企画としては避けたいところです。
※本稿は2026年8月時点の公表情報に基づく一般的な情報提供であり、個別の税務判断を行うものではありません。適用の可否および税務処理については、顧問税理士および管轄の経済産業局にご確認ください。







