中小企業診断士の独立ストーリー①副業から始めた仕事づくりと組織化への挑戦
中小企業診断士の独立は、多くの人にとって憧れであり、同時に大きな不安を伴うものです。会社員として安定した立場を捨て、未知の世界へ飛び込む勇気は、一体どこから生まれるのでしょうか。
今回、アクセルパートナーズのインタビューにご登場いただいたのは、ナレッジハブの松尾さん。会社員時代に副業で月100万円以上を稼ぎ、その後独立。現在は組織化へと事業を拡大されている松尾さんのリアルな独立ストーリーは、独立を志す中小企業診断士の方々にとって、確かな道しるべとなるはずです。

会社員を辞め「ワクワク」を選んだ理由
松尾さんは、かつて一流企業で「会社の中で一番出世してやる」という気概を持って働いていました。しかし、2024年2月のある日、その心境に大きな変化が訪れます。
「仮に会社で出世し、社長や会長になったとします。それは会社員としてのキャリアにおいて非常に充実したゴールですが、ふとその未来に純粋な『ワクワク感』を抱けなくなっている自分に気づいたのです。その切実な思いに襲われた瞬間がありました」
この胸の奥底から湧き上がる感覚に突き動かされ、両親と妻が近くにいる場で「俺、独立するわ」とぽつりと告白。驚くことに、その返答は「いいんじゃない」という即答でした。この瞬間から、松尾さんのマインドは独立へと劇的に切り替わります。会社や仕事が嫌いになったわけではなく、「純粋にワクワクする方向に進みたい」という強い想いが、安定した会社員生活から一歩踏み出す原動力となったのです。
副業で月100万円超えを実現した仕事獲得術
松尾さんが独立へとスムーズに移行できた大きな要因は、会社員時代から継続していた副業での実績でした。独立するまでに「月額100万円は超えていました」という驚くべき成果を、どのようにして達成したのでしょうか。
当初、仕事獲得は「支援先からの紹介の数珠つなぎ」が中心でした。松尾さんは「経営者は孤独である」という言葉の真意を痛感し、支援先の会社に期待を超える価値を提供できれば、その経営者が喜んで別の経営者を紹介してくれるという好循環を自ら体験します。
最初に案件を獲得したのは、フリーランス・副業マッチングプラットフォームの「Workship(ワークシップ)」でした。SEO支援からスタートし、クライアントとの会話の中で「経営支援のニーズが数多く眠っていること」に気づきます。そして、「松尾さんって中小企業診断士だったよね」という言葉をきっかけに、診断士としての本格的な支援へと繋がっていきました。
「自分の名前で仕事ができることに喜びを感じていました。たとえ地雷案件であろうとなかろうと、まずはご依頼いただいたことに100%感謝し、期待を超える価値を提供できるか自分自身と戦うような感覚で、真摯に業務に取り組んでいました」
たとえ契約が続かなかったとしても、「ノウハウが溜まった」「良い経験ができた」と前向きに捉え、次の仕事に活かせる糧にしていました。この愚直な経験の積み重ねが、独立後の強固な仕事の基盤を築いたのです。
独立後の不安を乗り越え、組織化へ踏み出した覚悟
独立は順風満帆に見えても、やはり大きな不安が伴うものです。松尾さんもまた、独立後に「会社から給料が振り込まれなくなった最初の月に、急に強い不安に襲われて」と本音を語っています。「生命の危機すら感じて、まずはご相談いただいた案件はすべて受けよう」と、目の前の仕事にフルコミットする日々が始まりました。
しかし、一人でこなせる仕事量には当然限界があります。年末頃には、「このまま一人のコンサルタントとして、数えられる程度のご支援だけでキャリアを終えていいのだろうか」という葛藤が募ります。かつては「43歳までに上場、あるいはそれと同規模の会社を作りたい」と、いわばファッション(憧れ)のように語っていた夢が、次第に生々しい現実の課題として目の前に立ちはだかったのです。
特に、最初の社員を雇用する決断には「1年半かかった」と言います。不安が9割を占め、なかなか一歩を踏み出せませんでした。この時期は「現状維持でごまかしている自分自身が許せない」という自己葛藤に加え、当初想定していた家族との時間が確保できず、妻とのすれ違いも発生。「人生で一番、精神的に追い詰められていた」と振り返ります。
この苦しい状況を脱却できたのは、「もう組織化に向けて腹を決め、次に面談に来ていただいた方を必ず採用する」と決意した瞬間でした。そして、妻に対してはこう正直に想いを打ち明けました。
「僕は会社を大きくしていきたい。大きなものにロマンを感じているし、夢に向かって進んでいる感覚がないと、毎朝死んだような顔で仕事をすることになってしまう。家族を養うために頑張っているのはもちろんだけど、それ以上の部分は僕のわがままなんだ」
この告白に対して妻の理解を得られたことで、松尾さんの霧は晴れ、組織化への道が一気に開けたのです。
「うちよりうちのこと考えてる」と言われる、支援の本質
松尾さんがクライアントからよく掛けられる言葉に、「うち(自社)の社員以上に、うちの会社のことを考えてくれているよね」というものがあります。これは、松尾さんの愚直な仕事哲学を象徴しています。
松尾さんは、支援先企業が成長に繋がらないと判断した場合、無理な提案は一切しません。例えば、月額40万円の新規事業開発案件があったとしても、それ以上の付加価値を提供できないと確信すれば、契約を見送ります。
「自社の都合だけで無理にご契約いただいたとしても、決して長続きしません。成果が出ずに終わってしまえば、お互いに不満が残るだけだからです」
相談を受けたからといって「強引に受注を取りに行く」営業スタイルはとらず、「顧客の勝ち筋が見えるまで、徹底的に話を聞く」姿勢を貫いています。相談相手に対しても、以下のように伝えているそうです。
「私たちがご一緒できるのは、この条件が整ってからです。これは当社のポリシーですので、それまでに何度ご相談にお越しいただいても全く問題ありません。むしろ、私たちは様々なビジネスに触れられることを純粋に楽しんでいます」
このように、徹底して顧客の持続的な成長に寄り添う姿勢こそが、松尾さんが信頼され、選ばれ続ける本質的な理由なのです。
持続的な成長へ。組織拡大の具体的な目標と展望
「ナレッジハブは地盤固めの時期にあります。まずは社員4人体制で、クライアントに確実な価値を提供すること。解約を防ぎ、すべてのお客様が満足している状態を作りたい」と考えています。驚くべきことに、「あえて売上予算は立てない」という経営判断も下しました。社員が安定して力を発揮し、顧客との信頼関係を深めることを最優先する時期と位置づけているからです。
来年の7月には「さらに一段高いステージに進む」とし、売上の数字よりも「安定的に価値を提供できる体制(供給サイドのメンバー数)を増やすこと」にこだわると言います。
「『事業開発やマーケティングの支援といえば、ナレッジハブだよね』と誰もが認める規模に成長させたい。そのためには、将来的に何万社もの企業を支援できるようなスケールを今から描いておかなければ、絶対にその場所にはたどり着けません。だからこそ、高い目標を掲げ続けたいです」
この言葉からは、確かな足元を見つめつつも、大きなビジョンに向かって突き進む松尾さんの強い意志が伝わってきます。
松尾さんの独立ストーリーは、単なる成功談ではありません。会社員時代の葛藤、副業での努力、独立後の不安、そして組織化への挑戦という、リアルな道のりが描かれています。これらの経験は、これから独立を目指す中小企業診断士の方々にとって、計り知れない価値があるでしょう。
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