令和8年のIT導入補助金はどうなる?令和7年の補正予算などから見る“今からやるべき準備”とは
背景
政府は、令和7年度補正予算案を国会に提出し、12月16日に予算が成立しました。補正予算は、翌年度の補助金の動向、方向性を知る上で、非常に貴重な情報源となります。
本コラムでは、この補正予算案を詳細に読み解き、2026年のIT導入補助金の動向を予測し、採択獲得に向けて今から企業が準備しておくべきことについて記載します。
令和7年度補正予算の概要
令和7年度補正予算は総額は18兆3,034億円で成立しました。このうち経済産業省関連は2.7兆円にのぼります。
来年のIT導入補助金の動向を予測する上で注目すべきは「生活の安全保障・物価高への対応」に充てられた1兆3,570億円の内訳です。
「中小企業の賃上げ環境整備」には、既存基金を含め1兆1,300億円という巨額の予算が投じられました。ここから、IT導入補助金の母体となる「中小企業生産性革命推進事業」に3,400億円が計上されており、前年度補正予算と同額の規模となっています。
なお、中小企業生産性革命推進事業にはIT導入補助金のほか、中小企業成長加速化補助金、小規模事業者持続化補助金、事業承継・M&A補助金等を含んでおり、各補助金への予算配分は今後調整されることになります。

中小企業生産性革命推進事業の内容(令和6年度からの変化点など)
補正予算の情報から読み取れるのは、予算の規模だけではありません。令和6年度と令和7年度の事業概要を比較することで、政府が中小企業に求める姿勢の変化が読み取れます。
今回の主な変化点は以下の2点です。
米国関税など「国際情勢リスク」の明記
令和6年度では、物価高や人手不足といった課題が中心でしたが、令和7年度はこれらに加え、新たに米国関税による貿易環境の変化が明記されました。国際情勢の変動が経営リスクとして定義された形です。
賃上げに向けた「稼ぐ力の抜本的強化」
重要課題である「持続的な賃上げ」についても、表現が「稼ぐ力の強化」から「稼ぐ力を『抜本的に』強化」へと、より強い表現となりました。政府が、現状の延長線上ではない、大きな変革を求めていることが読み取れます。

来年のIT導入補助金はどうなる?
気になる来年のIT導入補助金の動向についてみていきましょう。
令和7年度補正予算案の段階では存在したIT導入補助金が、経産省のPR資料では「デジタル化・AI導入補助金」へと名称が刷新されました。
事業概要は、令和6年度のIT導入補助金とほぼ同じ内容であるため、IT導入補助金の制度廃止ではなく、実質的な後継事業として継続されると考えられます。
一方、名称に「AI導入」と冠している点から、国として中小企業のAI活用を強力に推進したい意図が読み取れます。
AI機能を搭載したITツールの導入に対しては、加点など、優遇措置がが設けられる可能性が高いです。

参考:経済産業省関係令和7年度補正予算の事業概要(PR資料)
デジタル化・AI導入補助金採択に向けて今からできること
IT導入補助金2025の採択結果から読み解く「最も有利な申請タイミング」
2025年12月時点の採択データ(通常枠・インボイス枠)を分析すると、ある傾向が顕著に表れています。
通常枠・インボイス枠ともに1次公募の採択率が最も高く、以降は回を追うごとに減少傾向にあるという点です。
新設されるデジタル化・AI導入補助金においても、予算配分の構造上、同様の傾向が続くと推察されます。採択の確度を高めるため、公募開始を待つことなく、早期に申請準備を進めることが肝要です。

では、具体的にどのような準備を先行すべきか。公募要領の発表を待たずに着手でき、かつ採択の可否を大きく左右する「2つの事前準備」について以下に解説します。
事前準備①:確実な採択に向けた「加点項目」の積み上げ
審査を有利に進めるための「加点項目」は、単なる優遇措置ではなく、国の施策に対する協力度合いを示す基準そのものです。したがって、可能な限り多くの項目を積み上げることが、採択への最短ルートとなります。
以下は、デジタル化・AI導入補助金でも継続が有力視される主要項目です。
中でも「賃上げ」は、今回の補正予算で「持続的な賃上げ」が事業目的の核として据えられている以上、最重要項目となることは確実です。賃上げの表明だけでなく、就業規則の改定等が必要になるケースもあるため、計画的な取得検討が求められます。

事前準備②:事業目的(賃上げ・AI活用)に合致するツールの選定
補正予算案では、物価高や人手不足といった課題に対し、「稼ぐ力の抜本的強化」が必要であると定義されています。
そのため、選定するITツールも、単なる業務の置き換えではなく、労働生産性の向上やDX推進に直結するものである必要があります。特に今回は名称に「AI」が冠されている通り、AI活用による付加価値の創出が強く意識されています。「自社の稼ぐ力をどう強化するか?」、「そこにAIをどう活用できるか?」という観点でツール選定を進めていただくと良いでしょう。
まとめ
「IT導入補助金」から「デジタル化・AI導入補助金」への移行は、国が求めるIT活用のレベルが一段階上がったことを示唆しています。
AI活用や抜本的な賃上げ計画が求められる点において、自社のみで最適なツール選定や申請書類の作成を完遂するのは、決して容易ではありません。
採択の確度を高めるためには、制度を熟知した専門家の知見を活用することも有効です。 公募要領の発表を待つことなく、まずは自社の課題整理や、導入すべきAIツールの検討から始めてみてはいかがでしょうか?


