「気合と根性」は最大のリスク?白書データで読み解く、中小企業の防衛的賃上げとデジタル投資
「人が足りない。人材流出を防ぐために、賃上げは避けられない。しかし、具体的にどう原資を捻出すればいいのか……」
現在、多くの中小企業の経営層が、この「賃上げの必要性は痛感しているが、出口が見えない」というジレンマに直面しています。特に中小規模の組織であれば、社長一人の決断が会社の命運を左右するため、その重圧は計り知れません。
ここで経営企画や中間管理職に求められるのは、「社長が安心して決断を下せるためのロードマップ」を提示することです。
本記事では、『2026年版 中小企業白書』のデータを活用し、経営陣の背中をロジカルに後押しするための3つのポイントを整理しました。
「業績が上がってから賃上げ」はもう遅い?
経営層が最も恐れるのは、無理な賃上げによるキャッシュフローの悪化です。しかし、白書は「何もしないことによる倒産リスク」を明確に示しています。
白書のデータ(下記グラフ参照)によれば、賃上げを実施した中小企業のうち、なんと4割超の企業が「業績の改善が見られないが賃上げを実施(予定を含む)」と回答しています。

出所:2026年版 中小企業白書
つまり、「儲かったから還元する」のではなく、「今、賃上げをしないと人材が流出し、事業そのものが継続できなくなるから防衛的に賃上げをする」というのが、多くの中小企業のリアルな実態なのです。
白書でも「人手不足はさらに深刻化するおそれがある」と明確に警告されています。「他社も苦しい中で動いている」という事実は、慎重な経営層が「一歩踏み出す」ための強力な安心材料になります。
賃上げの原資はどう作る?「気合と根性」からの脱却
「原資がない」という壁を突破する鍵は、白書が提言する「労働投入量の最適化」にあります。
ここで、「現場の気合と根性でカバーする」といった思考は払拭する必要があります。
白書は、非常に厳しい言葉でこう指摘しています。
> 「現状維持は最大のリスクといえるだろう。(中略)『稼ぐ力』を高め、『強い中小企業』へと成長することが重要である」
稼ぐ力(付加価値額)を上げるためには、労働生産性の向上が不可欠です。そして、その有効な手段として白書が挙げているのが「デジタル化の促進による労働投入量の最適化」です。
「IT化=高額なコスト」というイメージが、決断を鈍らせているかもしれません。しかし、中小企業の約6割が、すでに「アナログな状況からデジタルツールを利用した業務環境に移行(段階2)」しています。
さらに、中小企業の「情報処理・通信費」は明確に増加傾向にあり、特にクラウドサービスの使用料が伸びています。
つまり、競合他社はすでに「気合と根性の残業」をやめ、クラウドツールなどのデジタル化に投資することで業務効率を上げ、そこで浮いたリソース(労働生産性の向上)を賃上げの原資に回すというサイクルを作り始めているのです。

出所:2026年版 中小企業白書より抜粋
【Q&A】直面する「3つの問い」と白書が示す出口
「賃上げは必要だが、踏み切るには不安がある」。そんな経営陣が抱く本音の葛藤に対し、白書は客観的なデータで明確な解決策を示しています。
Q1.無理をして賃上げをしたら、会社が傾いてしまうのではないか?
A1.賃上げを「可能にするため」の経営改革が白書に示されています。白書は「現状維持は最大のリスク」と警鐘を鳴らす一方で、賃上げを継続するための解として「稼ぐ力(付加価値額)」の向上を挙げています。実際に、デジタル化の取組段階が進んでいる企業ほど賃上げ余力を確保できている傾向があります。つまり、賃上げを単体で捉えず、生産性を高める投資とセットで断行することこそが、会社を守りながら給与を引き上げる唯一の道です。
Q2.小規模の企業で、賃上げの原資をデジタル化で本当に作れるのか?
A2.「労働投入量の最適化」を通じて、付加価値を生む時間を創出できます。白書は、稼ぐ力を高める有効な手段としてデジタル化の促進による「労働投入量の最適化」を挙げています。中小企業の約6割は、すでにクラウドサービス等による「デジタルツールを利用した業務環境(段階2)」へと移行しており、情報処理・通信費の支出を伸ばすことで効率化を図っています。これにより削減された時間を、白書が重視する「高付加価値な業務」や「適切な価格転嫁への準備」に充てることこそが、白書が示す賃上げ原資捻出の正攻法です。
Q3.今はまだ、慎重に時期を待つべきではないだろうか?
A3.「待つこと」が、採用市場での致命的な遅れに直結します。経営陣が足踏みしている間にも、すでに約4割の中小企業が「業績に関わらず」賃上げに踏み切るという防衛策を講じています。今後、人手不足はさらに深刻化するおそれがあると白書でも明記されており、他社が環境整備と賃上げをセットで進める中で自社だけが停滞することは、将来的な労働力の確保(事業継続)を著しく困難にするリスクがあります。
まとめ 孤独な決断を「組織の戦略」に変える
「賃上げは、デジタル化による生産性向上とセットの経営改革である」。白書が示すこの「強い中小企業」へのルートを共有できれば、賃上げは「避けるべき負担」から「挑むべき成長戦略」へと変わります。社長の決断を支えるために、まずは小さな効率化から、提案してはいかがでしょうか。


