知らないと損する!中小企業の事業承継! 相続時に円滑な事業承継を実現するポイント!!

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二宮 圭吾
 編集: 二宮 圭吾
 株式会社アクセルパートナーズ代表・株式会社羅針(4℃ホールディングスグループ)常勤取締役

2009年にwebコンサルタントとして開業、2016年中小企業診断士登録。web集客や求人を中心に様々な支援を行う。独自の中小企業診断士ネットワークを運営。ブランド時計店GINZA RASINの常勤取締役や機能訓練型デイサービスとメディカルフィットネスを営むメディカルケアパーク伊勢原を経営。

事業承継は、会社の存続と発展に不可欠な経営課題です。この課題に直面する経営者や後継者の方に向けて、本記事では相続時に円滑な事業承継を実現するポイントを解説します。株式の分配や金銭面でのトラブル、事業承継税制といった制度活用まで、円滑な事業承継を実現するポイントを網羅的に解説。さらに、中小企業診断士、FP1級として活動する私が直面した事業承継のトラブル事例も紹介することで、読者の皆様が自社に最適な事業承継プランを構築する一助となることを目指します。

円滑な事業承継の重要性

日本の企業数の約99%を中小企業が占めており、日本の経済・社会の基盤を支えています。これらの企業の多くは、オーナー経営者によって経営されており、事業承継について問題を抱えている企業も少なくありません。中小企業庁が出している事業承継ガイドラインでも『円滑な事業承継によって事業価値をしっかり と次世代に引き継ぎ、事業活動の活性化を実現することが不可欠といえます。 他方、事業承継の準備が十分でなかったために、円滑な事業承継ができずに 不本意な結果になってしまう例もあります。』と事業承継について重要視しています。

事業承継の構成要素

事業承継とは文字通り「事業」そのものを「承継」する取組であり、 事業承継後に後継者が安定した経営を行うためには、現経営者が培ってきたあらゆる経営資源を承継する必要がある。後継者に承継すべき経営資源は多岐にわたるが、図1の「人(経営)」、「資産」、「知的資産」の3要素に大別される。

図1:事業承継の構成要素

資産の承継で発生する問題

今回は、資産の承継に注目して、解説をしていく。資産の承継に当たって、特に相続時の事業承継時に多くの問題が発生する。円滑な事業承継を実現するためには、これらの問題点を事前に理解し、適切な対策を講じることが不可欠です。主な問題点としては、図1の資産の承継に記載の『株式』、『事業用資産』、『資金』などが挙げられます。

相続争いによる事業の停滞

相続が発生すると、遺産分割をめぐって相続人間で争いが生じる可能性があります。特に、株式や事業用資産が遺産の大部分を占める場合、その評価や分割方法が争点となり、深刻な対立に発展することも少なくありません。このような相続争いの結果、『株式』の分散、会社の『事業用資産』を失ってしまい、経営判断の遅延や事業活動の停滞を招き、企業の業績悪化に繋がる大きなリスクとなります。

納税資金の不足

相続が発生した場合、相続税の納付が必要となります。事業用資産の評価額が高額である場合、多額の相続税が発生し、納税資金の確保することが困難になるケースがあります。特に、現預金などの流動資産が少ない場合、事業用資産を売却せざるを得ない状況に陥る可能性もあります。事業用資産の売却は、事業の継続に支障をきたすだけでなく、従業員の雇用にも影響を与える可能性があります。また、『資金』の不足は、事業承継後の経営を圧迫し、企業の成長を阻害する要因となる可能性があります。最悪の場合、廃業という選択肢を迫られることにもなりかねません。

相続時の事業承継のトラブル事例

相続時の円滑な事業承継には、綿密な計画と適切な実行が不可欠です。図1の資産の承継の構成要素にある『株式』『事業用資産』『資金』について、私が直面した中小企業のトラブル事例を紹介します。

『株式』によるトラブル

経営者が株式の多く保有していた時に相続が発生。法定相続人には、後継者と事業に関係ない者が存在。経営者の資産の大半が株式を占めていた為、後継者以外の相続人に株式が渡ってしまった。事業に関係ない相続人から買取り申し出があったが、自社株の評価額が巨額で後継者や会社に資金が足りずに買取りが出来なかった。その為、株式が第三者に売却された。後継者の株式が過半数に満たず、権限が不十分な為、経営に支障をきたしている。

『事業用資産』によるトラブル

経営者名義の事業用不動産を買取るだけの資金が法人になかった為、経営者自身が事業用不動産を所有したまま会社に貸し付けていた。そんな状況の時に相続が発生。そして、貸し付けている事業用不動産が相続財産の一部となり、相続税の課税対象となった。その為、相続税が多額になり、相続税の支払いに困る状況となった。相続人が経営に関わりのなかった為、貸し付けている事業用不動産の買取りを要求。ここまでの状況を図2にまとめた。買取り資金が法人に無かった為、他の買い手に売却され、事業用不動産が第三者に渡った。その結果、地代、家賃の値上げが起こり、経営に支障をきたす状況に陥った。

  1. 図2 事業用資産について

『資金』によるトラブル

立ち上げ時や資金繰りに困った時に経営者がお金を出して経営を続けていた。さらに金融機関からの借入れに対して、経営者が法人の連帯保証人になって借りている状況で相続が発生。経営者が出していたお金は、経営者が会社にお金を貸していることになった。会社に相続人がいない為、第三者が会社を引き継ぐことになったが、経営者が貸していたお金、金融機関からの借入れに対して会社に返済できる資産が無かった為、そのままになっていた。ワンマン経営で成長していた会社で引き継がれたものの会社は経営が悪化し、金融機関からの借入れの返済が滞った。その際に経営者の個人保証債務を引き継いだ相続人に債務返済を求められた。ここまでの状況を図3にまとめた。その後、経営者が会社に貸していたお金は返済も無く、金融機関からの借入れを相続人が負担していくことになった。

図3 個人保証債務について

相続時の事業承継を成功させるための対策

このようなトラブルに巻き込まれずに相続時の事業承継を成功させるためには、事前の準備と適切な手続きが不可欠です。自社株対策、相続税対策、円滑な相続のための遺言書作成など、多岐にわたる対策を講じる必要があります。上記の事例に対しての、具体的な対策を解説します。

『株式』によるトラブルの対策

株式のトラブルに関しては、自社株を後継者に集中させることが重要になります。その対策として、自社株評価額を把握した上で事業承継税制や種類株式、遺言書の活用、生命保険を利用して会社若しくは後継者に株式を買取る資金の確保することである。

『事業用資産』によるトラブルの対策

事業用資産のトラブルに関しては、相続時に後継者が相続する若しくは会社が買取るここがポイントになります。その対策として、遺言書の活用、生命保険を利用して会社若しくは後継者に事業用資産を買取る資金の確保することなどである。

『資金』によるトラブルの対策

資金のトラブルに関しては、相続時に経営者が法人の連帯保証人になっている金融機関からの借入れや経営者からの借入れを返済出来るようにしておくことがポイントになります。その対策として、生命保険を利用して会社に返済資金の確保することなどである。

対策方法について

上記のトラブルの対策として挙げた対策方法について、気を付けるポイントなど交えて説明をしていきます。

自社株評価

自社株は、相続財産の中でも大きな割合を占めることが多く、その評価額は相続税額に大きく影響します。自社株評価の方法は複数あり、それぞれの方法によって評価額が異なるため、適切な方法を選択することが重要です。事前に税理士などの専門家に相談し、自社株評価額を把握しておくこと。

 相続税対策

相続時には、自社株以外の財産の把握も非常に重要であり、特に経営者が保有している事業用資産や会社の借入れ状況なども事業承継の大きく関わってきます。相続時に会社の資金が不足すると、事業承継後の経営を困難になるだけでなく、重要な事業用資産を失う場合もあります。様々な対策を検討し、会社の資金を確保しておくことが重要です。

事業承継税制

事業承継税制は、後継者が先代経営者から事業を引き継ぐ際に発生する相続税や贈与税の納税を猶予または軽減する制度です。事業の継続性を維持し、雇用を守り、経済活動を活性化させることを目的としています。具体的には、特例承継株式等を取得した場合の相続税の納税猶予や、贈与税の非課税措置などがあります。気を付けるポイントとして、後継者以外の相続人への遺留分の侵害である。

適用要件

事業承継税制の適用を受けるためには、一定の要件を満たす必要があります。主な要件は以下の通りです。

  • 後継者が一定期間事業を継続して経営すること
  • 後継者が一定の株式数等を保有すること
  • 事業計画を策定し、都道府県知事の認定を受けること

一般措置と特例措置

事業承継税制には、主に2つの種類があります。一般措置と特例措置も納税の猶予という基本的な仕組みは同様であるが、制度上、主として以下の表のような違いがある。

種類株式の活用

種類株式を活用することで、後継者への議決権集中や、配当による財産移転などが可能になります。例えば、議決権を多く持つ種類株式を後継者に承継させることで、経営権の安定化を図ることができます。また、配当を多く受け取れる種類株式を後継者に承継させることで、後継者の生活資金を確保することも可能です。

遺言書作成

遺言書を作成することで、相続人の間での紛争を予防し、円滑な相続を実現することができます。遺言書には、遺産の分割方法や後継者の指定などを記載することができます。公正証書遺言を作成することで、遺言書の有効性を高めることができます。気を付けるポイントとして、後継者以外の相続人への遺留分の侵害である。

生命保険の活用

生命保険は、相続税の納税資金を確保する効果的な手段です。主に二つの方法があり、①経営者を契約者、被保険者として死亡保険金を相続人である後継者が受け取る。②法人を契約者、経営者を被保険者として死亡保険金を法人が受け取る。どちらの方法でも受け取った保険金で自社株の買取りや事業用資産の買取りなど幅広く活用が出来る。②の場合、法人が受け取る保険金は、原則、雑収入として計上されるので、法人税がかかることを考慮すること。

まとめ

相続時の事業承継は、事業の将来を左右する重要な経営課題です。相続争い、納税資金不足といった問題は、事業の縮小や廃業に繋がりかねません。本記事では、相続時の事業承継について、基礎知識、トラブル事例、そして成功のための対策を解説しました。この内容を理解することは、適切な対策を講じる第一歩です。その第一歩として、自社株など資産の価値を把握することです。資産を把握することで自社株対策や相続税対策が明確になり、円滑な相続時の事業承継を実現に繋がります。相続時の事業承継は複雑な問題であり、専門家への相談も有効です。早めの準備と対策によって、事業の安定と発展を目指しましょう。

二宮 圭吾
 編集: 二宮 圭吾
 株式会社アクセルパートナーズ代表・株式会社羅針(4℃ホールディングスグループ)常勤取締役

2009年にwebコンサルタントとして開業、2016年中小企業診断士登録。web集客や求人を中心に様々な支援を行う。独自の中小企業診断士ネットワークを運営。ブランド時計店GINZA RASINの常勤取締役や機能訓練型デイサービスとメディカルフィットネスを営むメディカルケアパーク伊勢原を経営。