在庫を抱えて税金だけ払う?評価損計上で節税する条件と注意点

  •  

下木原 誠
 編集:下木原 誠
 公認会計士、税理士、中小企業診断士、社会保険労務士、応用情報技術者

私はこれまでIT系事業会社の経理として連結決算や単体決算、コンサルティングファームのコンサルタントとして会計アドバイザリー、公認会計士として金商法・会社法監査といった、会計に関わる業務に従事してきました。 業務の際は、あるべき姿を提示するだけではなく、事業者様の目線に立った価値提供を常に心がけております。 お客様のパートナーとして、事業の成長に貢献できるよう努めますので、よろしくお願いいたします。

在庫を多く抱える小売業や製造業、卸売業にとって、在庫と税金の関係は悩ましい問題です。

仕入れに資金を使い、倉庫代もかかり、キャッシュは減っていく。それなのに、帳簿上は「在庫=資産」として計上されるため、利益が減らず、税金も減らない。売れない在庫を抱えているだけで、余計な税金を払っているような状況になることがあります。

この問題を解消する方法の一つが「在庫評価損の計上」です。

ただし、評価損は何でも計上できるわけではありません。税務上、認められるための条件があり、これを満たさなければ税務調査で否認されてしまいます。

本記事では、在庫評価損の仕組みと、節税に活用するための条件・注意点を解説します。

なぜ在庫が増えると税金が増えるのか

まず、在庫と税金の関係を整理しておきましょう。

法人税や所得税は「利益」に対して課税されます。そして、利益を計算するときの「売上原価」は、次の式で計算されます。

売上原価 = 期首在庫 + 当期仕入 - 期末在庫

この式のポイントは、期末在庫が多いほど、売上原価は減るということです。売上原価が減れば利益が増え、利益が増えれば税金も増えます。

具体例で見てみましょう。

【具体例】仕入れ代は払ったのに黒字になる

商品単価1,000円の商品を10個仕入れ(計10,000円)、7個を1,200円で売った(売上8,400円)とします。

  • 売上:8,400円
  • 仕入:10,000円
  • 収支:-1,600円(赤字)

キャッシュフローで見れば、1,600円のマイナスです。

ところが、期末に3個の在庫(3,000円)が残っているため、会計上の計算は変わります。

  • 売上:8,400円
  • 売上原価:7,000円(10,000円-在庫3,000円)
  • 利益:1,400円(黒字)

キャッシュは減っているのに、帳簿上は黒字。この1,400円に対して税金がかかります。

在庫は「まだ売れていない仕入れ」として、費用ではなく資産に計上されるためです。これが「在庫を抱えると税金が増える」カラクリです。

在庫評価損とは何か

在庫評価損とは、棚卸資産の帳簿価額と時価(正味売却価額)の差額を、損失として計上することです。

たとえば、仕入原価1,000円の商品が、市場価格の下落で時価800円になったとします。この場合、差額の200円を「棚卸資産評価損」として費用計上できます。

評価損を計上すれば、利益が減り、税金も減る。これが評価損による節税の仕組みです。

「低価法」を採用していることが前提

ただし、評価損を計上するには、棚卸資産の評価方法として「低価法」を採用していることが前提です。

棚卸資産の評価方法には、大きく分けて「原価法」と「低価法」があります。

  • 原価法:取得原価をそのまま評価額とする
  • 低価法:取得原価と時価を比較し、低い方を評価額とする

低価法を採用していれば、時価が下がったときに評価損を計上できます。原価法では、時価が下がっても帳簿価額は変わりません。

税務署に届出をしていない場合、自動的に「最終仕入原価法」(原価法の一種)が適用されます。評価損を活用したいなら、低価法への変更届を出しておく必要があります。

税務上、評価損が認められる3つの条件

ここが最も重要なポイントです。

低価法を採用していても、単なる値下がりでは、税務上、評価損は認められません。

税務署が評価損の計上を認めるのは、以下のような「特定の事実」が生じた場合に限られます。

条件①:災害による著しい損傷

地震、火災、水害などの災害で、商品が著しく損傷した場合です。

条件②:著しい陳腐化

棚卸資産そのものには物質的な欠陥がないものの、経済的な環境の変化で価値が著しく下がり、今後回復しないと認められる場合です。

具体的には、以下のようなケースが該当します。

  • 季節商品の売れ残り:夏物衣料が秋になっても残っている、クリスマス商品が年明けまで残っている場合など。過去の実績から「今後通常の価額では販売できない」ことが明らかな場合です。
  • 新製品の発売による型落ち:スマホや家電で、新モデルが出ると旧モデルの価値が急落するケース。「今後通常の方法では販売できない」状態であることが条件です。

条件③:破損、品質変化、品質低下

物理的な破損や、保管中の品質劣化などで、通常の販売ができなくなった場合です。

評価損が認められないケース

逆に、以下のようなケースでは評価損は認められません。

  • 単なる物価変動
  • 過剰生産による市場価格の下落
  • 建値(メーカー希望小売価格)の変更

「景気が悪くなって売値が下がった」「競合が値下げしたから」というだけでは、評価損は計上できません。

低価法を使うための手続き

低価法を採用するには、税務署への届出が必要です。届出をしていないと、自動的に原価法(最終仕入原価法)が適用されます。

届出のタイミング

  • 法人の場合:設立1期目なら、最初の確定申告書の提出期限まで。すでに設立済みなら、変更したい事業年度の開始日の前日まで。
  • 個人事業主の場合:開業した年なら翌年の3月15日まで。すでに開業しているなら、その年の確定申告期限まで。

変更後は3年間変更不可

評価方法を変更すると、原則として3年間はその方法を継続しなければなりません。「今期だけ低価法にして、来期は原価法に戻す」といった恣意的な運用はできません。

評価損と廃棄損の違い

在庫に関する損失には、評価損のほかに「廃棄損」もあります。両者の違いを整理しておきましょう。

評価損

  • 在庫は手元に残ったまま
  • 帳簿価額を時価まで引き下げる
  • 実際に売却・廃棄していなくても計上できる

廃棄損

  • 在庫を物理的に廃棄する
  • 取得原価の全額を費用として計上
  • 廃棄の証拠(写真、廃棄証明書など)が必要

廃棄損の方が、1回あたりのインパクトは大きくなります。ただし、「本当に廃棄したのか」が税務調査で厳しく確認されます。

廃棄する場合は、以下の証拠を残しておきましょう。

  • 廃棄した日付、数量、金額を記録した書類
  • 廃棄業者からの廃棄証明書
  • 廃棄前・廃棄中の写真

評価損計上の具体的な流れと仕訳

評価損を計上する流れを、具体例で見てみましょう。

【ケース】取得原価100万円の在庫、時価80万円

この場合、評価損は20万円です。

仕訳

(借方)棚卸資産評価損 200,000円 / (貸方)棚卸資産 200,000円
  

この結果、課税所得が20万円減少します。実効税率が約33%なら、節税効果は約6.6万円です。

100万円の評価損なら、節税効果は約33万円になります。

節税シミュレーション

評価損の金額 課税所得の減少 節税効果(税率33%の場合)
20万円 20万円 約6.6万円
100万円 100万円 約33万円
500万円 500万円 約165万円

滞留在庫が多い企業では、評価損の適正な計上だけで数十万円〜数百万円の節税効果が生まれることもあります。

税務調査で否認されないための注意点

評価損や廃棄損は、税務調査で重点的にチェックされる項目の一つです。否認されないために、以下の点に注意してください。

①「実際に価値が下落した事実」の客観的証拠を残す

「陳腐化した」「売れなくなった」と主張するなら、それを裏付ける証拠が必要です。

  • 市場価格の推移が分かる資料(ネット通販サイトの価格履歴など)
  • 新製品発売のプレスリリースや広告
  • 過去の販売実績(長期間売れていない記録)
  • 得意先から「もう要らない」と言われた記録

調査官は業界の専門家ではないため、客観的な証拠で説明できるようにしておくことが重要です。

②決算直前の過剰な評価損計上は疑われる

決算間際に突然、大量の評価損を計上すると、「利益調整ではないか」と疑われます。

在庫の状況は年間を通じて把握し、適時に評価損を計上するのが理想です。

③架空の廃棄損は重加算税の対象

実際には在庫が存在しているのに、架空の廃棄損を計上するのは脱税行為です。発覚すれば、重加算税(本来の税額の35〜40%)が課されます。

廃棄する場合は、必ず証拠を残してください。廃棄業者からの証明書、廃棄前後の写真、社内の廃棄決裁書などが必要です。

まとめ

在庫を抱えるビジネスでは、「キャッシュは減っているのに税金が増える」という矛盾に悩まされることがあります。

この矛盾を解消する方法の一つが、在庫評価損の適正な計上です。ただし、単なる値下がりでは税務上認められません。「著しい陳腐化」「災害による損傷」などの要件を満たすかどうか、きちんと確認することが必要です。

評価損を活用するためには、低価法を採用していることが前提です。まだ届出をしていない場合は、顧問税理士に相談して、低価法への変更を検討してみてください。

在庫の「隠れた損失」を見える化することが、節税の第一歩であり、健全な経営の第一歩でもあります。

当事務所では、在庫管理と税務の両面から、節税策のご提案をしています。「在庫が膨らんで困っている」「評価損が計上できるか知りたい」という方は、お気軽にご相談ください。

下木原 誠
 編集:下木原 誠
 公認会計士、税理士、中小企業診断士、社会保険労務士、応用情報技術者

私はこれまでIT系事業会社の経理として連結決算や単体決算、コンサルティングファームのコンサルタントとして会計アドバイザリー、公認会計士として金商法・会社法監査といった、会計に関わる業務に従事してきました。 業務の際は、あるべき姿を提示するだけではなく、事業者様の目線に立った価値提供を常に心がけております。 お客様のパートナーとして、事業の成長に貢献できるよう努めますので、よろしくお願いいたします。

相談無料、お気軽にご相談ください!

Contact