繰越欠損金が引き継げない?M&Aで見落としがちな5年ルールと制限
繰越欠損金が引き継げない?M&Aで見落としがちな5年ルールと制限
M&Aを検討する際、対象会社に繰越欠損金があると聞いて節税効果を期待することがあります。「繰越欠損金が3億円ある」となれば、税率30%として約9,000万円の節税効果——これは魅力的に見えます。
しかし実際には、M&Aで繰越欠損金を引き継げるケースは限定的です。「節税目的のM&Aは租税回避行為」というのが税法の基本スタンスであり、厳しい制限が設けられています。
本記事では、繰越欠損金がM&Aで引き継げない理由と、引き継ぐための条件、そして引き継げない場合の対処法について解説します。
繰越欠損金とは何か——赤字の繰越制度
まず、繰越欠損金の基本を確認しておきましょう。
繰越欠損金とは、過去の事業年度で発生した赤字(欠損金)を、翌期以降に繰り越して黒字と相殺できる制度です。青色申告をしている法人であれば、原則として10年間繰り越すことができます。
たとえば、前期に1億円の赤字を出し、当期に1億円の黒字が出た場合、前期の赤字1億円と当期の黒字1億円を相殺することで、当期の課税所得はゼロになります。つまり、法人税の負担がなくなるわけです。
この制度の趣旨は、企業の業績は年度によって波があるため、複数年度を通じて公平に課税しようというものです。
「繰越欠損金目的のM&Aは認めない」が法の趣旨
以前は、M&Aで赤字会社を買収すると、その繰越欠損金を買い手が比較的容易に引き継ぐことができました。
しかし、この制度を悪用した節税スキームが横行しました。具体的には、以下のようなケースです。
- 繰越欠損金が多額にある赤字会社(休眠会社など)を買収
- 対象会社の事業は引き継がず、自社の黒字事業を対象会社に移転
- 対象会社の繰越欠損金と自社の黒字を相殺して節税
このような「事業実体のない節税目的のM&A」を防ぐため、税制改正により繰越欠損金の引継ぎに厳しい制限が設けられました。
税法の基本スタンスは明確です。「繰越欠損金目当てのM&Aは租税回避行為として認めない」
株式譲渡では繰越欠損金は引き継げない
M&Aのスキームによって、繰越欠損金の扱いは大きく異なります。
株式譲渡の場合、対象会社の株式を買い手が取得するだけなので、対象会社自体は存続します。このため、繰越欠損金も対象会社に残ったままです。
買い手の連結決算上、対象会社が子会社になったとしても、繰越欠損金が親会社に移転するわけではありません。あくまで対象会社の財産として残ります。
ただし、買い手が対象会社の経営改善に成功して黒字化すれば、対象会社自身で繰越欠損金を使って節税することは可能です。これは租税回避ではなく、本来の制度の趣旨に沿った使い方です。
合併で繰越欠損金を引き継ぐための条件
では、合併ならば繰越欠損金を引き継げるのでしょうか。
合併の場合でも、繰越欠損金を引き継ぐには厳しい条件があります。
条件①:適格合併であること
まず、合併が「適格合併」の要件を満たす必要があります。適格合併とは、税務上の一定の要件を満たす合併のことで、資産・負債を簿価で引き継げるなど税務上の優遇措置が受けられます。
適格合併の要件については、別記事で詳しく解説していますが、対価が株式のみであること、事業継続要件、従業員引継要件などがあります。
条件②:支配関係が5年超継続していること(5年ルール)
適格合併であっても、繰越欠損金を全額引き継ぐには、原則として支配関係(50%超の株式保有関係)が5年超継続していることが必要です。
これが「5年ルール」です。
たとえば、2020年に買収して2025年に合併する場合、支配関係の継続期間は5年以内なので、繰越欠損金の引継ぎには制限がかかります。
一方、2020年に買収して2026年に合併すれば、5年超の支配関係があるため、繰越欠損金を全額引き継げる可能性があります。
条件③:みなし共同事業要件を満たすこと
5年経過していない場合でも、みなし共同事業要件を満たせば、繰越欠損金を全額引き継げます。
- 合併する2社の事業に関連性があること
- 事業規模が概ね2倍以内であること、または被合併法人の役員が合併後も経営に参画すること
- 従業員の80%以上を引き継ぐこと
- 主要事業を継続すること
つまり、「対等な精神での合併」であれば、5年未満でも繰越欠損金を引き継げるということです。
条件④:時価純資産超過額が繰越欠損金以上であること
5年ルールもみなし共同事業要件も満たさない場合でも、時価純資産超過額(含み益)が繰越欠損金額以上であれば、繰越欠損金を全額引き継げます。
5年ルールの具体例
ケース①:5年以内に合併するケース
- 2020年4月:買収(支配関係の発生)
- 2025年3月:合併
このケースでは、支配関係の継続期間が5年未満です。このため、原則として繰越欠損金の引継ぎには制限がかかります。
ただし、みなし共同事業要件を満たすか、時価純資産超過額が繰越欠損金以上であれば、全額引き継ぐことが可能です。
ケース②:5年超経過後に合併するケース
- 2020年4月:買収(支配関係の発生)
- 2025年4月:合併
このケースでは、支配関係が5年超継続しています。このため、繰越欠損金を全額引き継ぐことができます。
繰越欠損金が引き継げない場合の対処法
対処法①:対象会社を存続させて黒字化を図る
株式譲渡で買収した場合、繰越欠損金は対象会社に残ります。であれば、対象会社自身で繰越欠損金を活用すればよいのです。
買い手が経営改善に取り組み、対象会社を黒字化すれば、対象会社で繰越欠損金を使って節税できます。グループ全体で見れば、節税効果は同じです。
対処法②:5年経過後に合併する
どうしても合併で繰越欠損金を引き継ぎたい場合は、5年経過後に合併すればよいのです。
ただし、5年間待つことが事業上合理的かどうかは別問題です。統合のタイミングを遅らせることで、シナジー効果の実現が遅れる可能性もあります。
対処法③:事業譲渡で資産調整勘定を活用する
事業譲渡のスキームを選択すれば、繰越欠損金は引き継げませんが、代わりに「資産調整勘定」(税務上ののれん)が発生します。
資産調整勘定は60ヶ月(5年)で損金算入できるため、実質的な節税効果を得られます。
まとめ
繰越欠損金は、M&Aにおいて魅力的な節税効果をもたらす可能性があります。しかし、税法は「節税目的のM&Aは租税回避行為」というスタンスを取っており、繰越欠損金の引継ぎには厳しい制限があります。
株式譲渡では繰越欠損金は引き継げません。合併で引き継ぐには、適格合併であること、5年超の支配関係があること、またはみなし共同事業要件を満たすことが必要です。
繰越欠損金が引き継げない場合でも、対象会社を黒字化することで活用できます。また、5年経過後に合併する、事業譲渡で資産調整勘定を活用するなどの対処法もあります。
繰越欠損金の取り扱いは、M&Aスキームの選択に大きな影響を与えます。買収を検討する際は、税務の専門家に相談しながら、最適なスキームを選ぶことが重要です。
当事務所では、M&Aの税務スキーム選択から、繰越欠損金の取り扱いまで一貫してサポートしています。「繰越欠損金を活用できるか知りたい」という方は、お気軽にご相談ください。


