適正な買収価格の判断方法は?高値づかみを避けるポイント
適正な買収価格の判断方法は?高値づかみを避けるポイント
M&Aの交渉で売り手から提示された買収価格にて、「この価格は高すぎないか?」「適正な価格なのか?」と悩む買い手は多いです。
買収価格の判断を誤ると、高値づかみとなり、買収後にのれんの減損損失を計上したり、投資回収ができなかったりするリスクがあります。
本記事では、適正な買収価格とは何か、企業価値の算定方法、高値づかみを避けるチェックポイント、そして価格交渉のポイントについて解説します。
適正買収価格とは何か
適正な買収価格を考える前に、いくつかの概念を整理しておきましょう。
企業価値=適正価格ではない
企業価値(バリュエーション)は、対象会社の客観的な価値を算定したものです。しかし、これがそのまま「適正な買収価格」になるわけではありません。
買収価格は、以下の要素で決まります。
買収価格 = 企業価値 + シナジー効果 + 交渉力
シナジー効果を加味する
買い手にとって、対象会社を買収することで得られるシナジー効果(相乗効果)があります。
たとえば、買収によって売上が10%伸びる、コストが20%削減できるといった効果です。このシナジー効果を金額に換算し、企業価値に上乗せすることができます。
ただし、シナジー効果は不確実性が高いため、過大に見積もると高値づかみのリスクがあります。
交渉余地を考慮する
売り手が提示する価格は、通常、売り手の希望価格であり、交渉の余地があります。
買い手は、DDで発見した問題点を材料に価格交渉を行い、適正な価格に引き下げることができます。
企業価値算定の3つの方法
企業価値を算定する方法には、主に3つあります。
方法①:DCF法(将来キャッシュフローの現在価値)
DCF法(Discounted Cash Flow法)は、対象会社が将来生み出すキャッシュフローを現在価値に割り引いて企業価値を算定する方法です。
最も理論的で、大企業のM&Aでよく使われます。
メリット
- 将来の収益力を反映できる
- 理論的に正しい
デメリット
- 将来予測が必要(不確実性が高い)
- 計算が複雑
方法②:類似会社比較法(マルチプル法)
類似会社比較法は、対象会社と類似する上場企業の株価を参考に、企業価値を算定する方法です。
EBITDAマルチプル、PERなどの指標を使います。
メリット
- 市場の相場感を反映できる
- 計算が比較的簡単
デメリット
- 適切な類似企業を見つけるのが難しい
- 非上場企業の場合、割引が必要
方法③:純資産法(コストアプローチ)
純資産法は、対象会社の純資産(資産-負債)を基に企業価値を算定する方法です。
メリット
- 計算が簡単
- 最低限の価値が分かる
デメリット
- 将来の収益力を反映できない
- のれん(無形の価値)を評価できない
純資産法は、清算を前提とする場合や、資産価値が高い会社(不動産会社など)に適しています。
高値づかみを避けるチェックポイント
適正な買収価格かどうかを判断するために、以下のチェックポイントを確認しましょう。
チェック①:複数の手法で検証する
1つのバリュエーション手法だけで判断せず、複数の手法で算定し、妥当性を検証します。
たとえば、DCF法で算定した企業価値が10億円、類似会社比較法で8億円、純資産法で5億円だった場合、総合的に判断して7〜9億円程度が妥当と考えられます。
チェック②:第三者評価を取得する
自社だけで判断せず、第三者の評価機関やM&Aアドバイザーから企業価値の評価を取得します。
客観的な評価を得ることで、高値づかみを避けることができます。
チェック③:のれん比率を確認する
のれん比率とは、買収価格に占めるのれんの割合です。
のれん比率 = のれん ÷ 買収価格
のれん比率が50%を超える場合は、要注意です。のれんが大きいほど、減損リスクも高くなります。
たとえば、純資産3億円の会社を10億円で買収する場合、のれんは7億円、のれん比率は70%です。この場合、買収価格が高すぎる可能性があります。
チェック④:業界相場と比較する
同業他社のM&A事例を調べ、買収価格の相場感を確認します。
EBITDAマルチプルが業界平均で5倍程度なのに、自社の案件が10倍になっている場合、高値づかみの可能性があります。
チェック⑤:投資回収期間を確認する
買収価格を、対象会社の年間利益で割ることで、投資回収期間を算定できます。
投資回収期間 = 買収価格 ÷ 年間利益
たとえば、買収価格10億円、年間利益1億円の場合、投資回収期間は10年です。
投資回収期間が10年を超える場合、高値づかみの可能性があります。
価格交渉のポイント
売り手が提示する価格は、交渉の余地があります。以下のポイントを押さえて価格交渉を行いましょう。
ポイント①:DDで発見した問題点を材料にする
DDで発見した簿外債務、業績悪化の兆候、法務リスクなどを材料に、価格の減額を求めます。
たとえば、退職給付債務が5,000万円あることが判明した場合、買収価格から5,000万円減額するよう交渉します。
ポイント②:アーンアウト条項の活用
アーンアウト条項とは、買収後の業績に応じて買収価格を調整する条項です。
たとえば、「買収後3年間の平均利益が1億円以上であれば、追加で2億円を支払う」といった条件を設定します。
これにより、業績が不確実な場合でも、買い手のリスクを抑えることができます。
ポイント③:段階的買収の検討
最初は過半数(51%など)の株式を取得し、一定期間後に残りの株式を取得する「段階的買収」も有効です。
買収後の業績を見てから、残りの株式の買収価格を決めることができます。
適正価格と感じても買収すべきでないケース
買収価格が適正であっても、以下のようなケースでは買収を見送るべきです。
ケース①:PMIの難易度が高すぎる
対象会社の組織文化が自社と大きく異なる、地理的に離れているなど、PMI(買収後統合)の難易度が高い場合、シナジー効果を実現できない可能性があります。
ケース②:シナジー効果が不確実
シナジー効果が不確実で、実現する見込みが低い場合、買収価格を回収できないリスクがあります。
ケース③:自社の財務体力を超えている
買収資金の調達が困難、買収後の資金繰りが厳しいなど、自社の財務体力を超えている場合、無理な買収は避けるべきです。
まとめ
適正な買収価格は、企業価値にシナジー効果を加味し、交渉によって決まります。
企業価値の算定には、DCF法、類似会社比較法、純資産法の3つの方法があります。複数の手法で検証し、第三者評価も取得することで、客観的な判断ができます。
高値づかみを避けるためには、のれん比率を確認する、業界相場と比較する、投資回収期間を確認するなどのチェックポイントがあります。
価格交渉では、DDで発見した問題点を材料にする、アーンアウト条項を活用する、段階的買収を検討するなどのポイントがあります。
買収価格が適正であっても、PMIの難易度が高すぎる、シナジー効果が不確実、自社の財務体力を超えているなどの場合は、買収を見送るべきです。
買収価格の判断は、M&Aの成否を左右する最も重要な要素です。慎重に検討することをおすすめします。
当事務所では、企業価値算定から、買収価格の妥当性検証まで、M&Aの財務アドバイザリーを提供しています。「提示された買収価格が妥当か知りたい」という方は、お気軽にご相談ください。


