買収後に資金繰りが悪化する原因は?運転資金増加の罠と対策

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下木原 誠
 編集:下木原 誠
 公認会計士、税理士、中小企業診断士、社会保険労務士、応用情報技術者

私はこれまでIT系事業会社の経理として連結決算や単体決算、コンサルティングファームのコンサルタントとして会計アドバイザリー、公認会計士として金商法・会社法監査といった、会計に関わる業務に従事してきました。 業務の際は、あるべき姿を提示するだけではなく、事業者様の目線に立った価値提供を常に心がけております。 お客様のパートナーとして、事業の成長に貢献できるよう努めますので、よろしくお願いいたします。

買収後に資金繰りが悪化する原因は?運転資金増加の罠と対策

M&Aで会社を買収した後、思わぬ資金繰りの悪化に直面する企業は少なくありません。

「買収した会社は黒字なのに、なぜかキャッシュが足りない」「買収資金の返済が想定以上に重い」——買収後の資金繰り悪化は、経営を圧迫し、場合によっては買収そのものを後悔する事態にもつながります。

本記事では、買収後に資金繰りが悪化する原因と、事前にできる対策、そして悪化した場合の対処法について解説します。

買収後に資金繰りが悪化する5つの原因

買収後に資金繰りが悪化する原因は、大きく分けて5つあります。

原因①:運転資金の増加

最もよくあるのが、運転資金の増加です。

買収した会社の売上が伸びると、それに伴って売掛金や在庫も増加します。この増加分は、キャッシュアウトを意味します。

売上が伸びているのに資金繰りが苦しくなる——これが「黒字倒産」のメカニズムでもあります。

原因②:買収資金の返済負担

買収資金を借入で調達した場合、毎月の返済負担が発生します。

たとえば、5億円を借り入れて10年返済の場合、年間5,000万円+金利の返済が必要です。買収した会社が順調に利益を出していても、この返済負担が重くのしかかります。

原因③:統合費用の発生

買収後には、システム統合費用、組織再編費用、人件費の増加など、さまざまな統合費用が発生します。

これらの費用は事前に想定していても、実際には予算を超えることが多く、資金繰りを圧迫します。

原因④:簿外債務の顕在化

DDで見落とした簿外債務が、買収後に顕在化することがあります。

退職給付債務、未払残業代、訴訟による損害賠償など、想定外の支払いが発生すると、資金繰りに大きな影響を与えます。

原因⑤:売上減少・利益悪化

買収後に対象会社の業績が悪化することもあります。

キーマンの退職、顧客の離反、市場環境の変化などにより、当初計画していた売上や利益が達成できず、資金繰りが悪化します。

運転資金が増加するメカニズム

運転資金の増加が資金繰り悪化の最大の原因です。このメカニズムを理解しておきましょう。

運転資金とは

運転資金とは、事業を回すために必要な資金のことです。具体的には、以下の式で計算されます。

運転資金 = 売掛金 + 在庫 - 買掛金

売掛金と在庫が増えると、運転資金が増加します。逆に、買掛金が増えると、運転資金は減少します。

売上が伸びると運転資金も増える

たとえば、月商1億円の会社があり、売掛金の回収サイトが2ヶ月、在庫が1ヶ月分、買掛金の支払サイトが1ヶ月だとします。

運転資金 = 2億円(売掛金)+ 1億円(在庫)- 1億円(買掛金)= 2億円

この会社の売上が1.5倍の月商1.5億円に伸びたとします。

運転資金 = 3億円(売掛金)+ 1.5億円(在庫)- 1.5億円(買掛金)= 3億円

運転資金が2億円から3億円に増加しました。つまり、売上が伸びると、1億円のキャッシュアウトが発生するのです。

これが「黒字なのにキャッシュが足りない」理由です。

買収前にできる資金繰り対策

資金繰りの悪化を防ぐためには、買収前の対策が重要です。

対策①:運転資金の必要額を試算する

買収後に必要な運転資金を事前に試算しておきます。

対象会社の売掛金、在庫、買掛金の残高を確認し、買収後に売上が伸びた場合の運転資金増加額をシミュレーションします。

対策②:余裕を持った資金調達

買収資金だけでなく、買収後の運転資金や統合費用も含めて、余裕を持った金額を調達します。

買収資金5億円に対して、運転資金・統合費用として1〜2億円程度の余裕を持たせることが望ましいです。

対策③:つなぎ融資の準備

買収後に一時的に資金が不足する場合に備えて、短期借入(つなぎ融資)を準備しておきます。

金融機関と事前に相談し、必要に応じて短期借入ができる体制を整えておくことが重要です。

対策④:親会社からの資金支援体制の構築

買い手が親会社となる場合、子会社に対して資金支援ができる体制を構築しておきます。

グループ内融資、CMS(キャッシュ・マネジメント・システム)などの仕組みを整えることで、柔軟な資金支援が可能になります。

買収後に資金繰りが悪化した場合の対処法

それでも買収後に資金繰りが悪化した場合、どう対処すればよいのでしょうか。

対処法①:短期借入の活用

一時的な資金不足には、短期借入(つなぎ融資、手形割引、当座貸越など)を活用します。

ただし、短期借入は金利が高く、返済期限も短いため、根本的な解決にはなりません。あくまで一時的な対応と位置づけましょう。

対処法②:売掛金の早期回収

売掛金の回収サイトを短縮することで、キャッシュインを早めます。

取引先と交渉して、支払サイトを60日から30日に短縮できれば、それだけでキャッシュフローは大きく改善します。

また、ファクタリング(売掛金の売却)を活用する方法もあります。

対処法③:在庫の圧縮

在庫を減らすことで、運転資金を圧縮できます。

売れ筋商品に絞って仕入れを行う、在庫回転率を高める、不良在庫を処分するなどの施策が有効です。

対処法④:買掛金の支払サイト延長

仕入先と交渉して、買掛金の支払サイトを延長します。

ただし、仕入先との関係悪化につながる可能性もあるため、慎重に進める必要があります。

対処法⑤:親会社からの資金支援

親会社が買い手の場合、親会社から子会社に対して資金支援を行います。

グループ内融資、増資、DES(デット・エクイティ・スワップ)などの方法があります。

対処法⑥:

下木原 誠
 編集:下木原 誠
 公認会計士、税理士、中小企業診断士、社会保険労務士、応用情報技術者

私はこれまでIT系事業会社の経理として連結決算や単体決算、コンサルティングファームのコンサルタントとして会計アドバイザリー、公認会計士として金商法・会社法監査といった、会計に関わる業務に従事してきました。 業務の際は、あるべき姿を提示するだけではなく、事業者様の目線に立った価値提供を常に心がけております。 お客様のパートナーとして、事業の成長に貢献できるよう努めますので、よろしくお願いいたします。

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