簿外債務チェックリスト|DDで見落とさない確認項目と見つけ方
簿外債務チェックリスト|DDで見落とさない確認項目と見つけ方
M&Aのデューデリジェンス(DD)で最も怖いのは、帳簿に載っていない「簿外債務」の存在です。
決算書を見ても分からない債務が、買収後に次々と顕在化する——このような事態は、買い手にとって悪夢です。数千万円から億単位の想定外の負担が発生し、買収の採算が一気に悪化することもあります。
本記事では、簿外債務とは何か、代表的な簿外債務の例、そしてDDで簿外債務を見つけるためのチェックポイントを解説します。
簿外債務とは何か——帳簿に現れない債務
簿外債務とは、貸借対照表に計上されていない債務のことです。
会計上、将来の支払義務が確定していても、一定の要件を満たさなければ負債として計上されません。また、経営者が意図的に計上していないケースもあります。
簿外債務は、買収後に顕在化して買い手の負担になります。DDの段階で見落とすと、買収価格の妥当性が崩れ、場合によってはディールブレイク(取引中止)の判断を迫られることもあります。
簿外債務の代表例
簿外債務には、どのようなものがあるのでしょうか。DDで見落とされやすい代表例を紹介します。
①退職給付債務
最も代表的な簿外債務が、退職給付債務(退職金債務)です。
多くの中小企業では、退職金規程はあるものの、退職給付引当金を計上していません。会計上、退職給付引当金は「将来の退職金支払に備えた引当金」であり、計上することが望ましいのですが、中小企業では計上していないケースが多いのです。
退職給付債務の金額は、「全従業員が今辞めたら支払う金額」で計算します。従業員が多い会社や、勤続年数が長い従業員が多い会社では、数千万円から億単位の債務が隠れていることがあります。
②未払残業代
労働基準法に基づく残業代が適正に支払われていないケースも多いです。
特に以下のようなケースでは、未払残業代が発生している可能性があります。
- タイムカードの記録と給与支払額が一致しない
- 固定残業代を導入しているが、実際の残業時間が固定残業時間を超えている
- 管理監督者として扱っているが、実態は管理監督者に該当しない
未払残業代は、過去2年分(場合によっては3年分)まで遡って請求される可能性があり、従業員数が多い会社では数千万円に達することもあります。
③賞与引当金・未払社会保険料
決算月によっては、翌月に支給予定の賞与が引当金として計上されていないことがあります。
また、社会保険料の納付が遅延しているケースもあります。社会保険料は毎月納付する必要がありますが、資金繰りが厳しい会社では納付が遅れていることがあります。
④偶発債務
偶発債務とは、現時点では確定していないが、将来発生する可能性がある債務のことです。
- 係争中の訴訟:損害賠償請求訴訟など
- 保証債務:関連会社の借入に対する保証、取引先への保証など
- 製品保証・クレーム対応費用:製造業における製品の欠陥に対する補償など
⑤その他の簿外債務
- 賃貸借契約の原状回復義務
- 土壌汚染などの環境負債
- 未払のリース料・レンタル料
- 未払の外注費・業務委託費
決算書から簿外債務を推測する方法
簿外債務は帳簿に載っていないため、決算書を見ただけでは分かりません。しかし、いくつかのポイントをチェックすることで、簿外債務の存在を推測することができます。
①退職給付引当金の有無を確認
貸借対照表に退職給付引当金が計上されているかを確認します。計上されていない場合、退職給付債務が簿外債務として存在している可能性があります。
退職金規程を確認し、簡易的に退職給付債務を計算してみましょう。
②賞与引当金の計上状況
決算月が賞与支給月の直前である場合、賞与引当金が計上されているかを確認します。
③勘定科目内訳書の確認
法人税申告書に添付される「勘定科目内訳書」には、貸借対照表の各科目の内訳が記載されています。
特に「仮受金」「預り金」などの科目に不明な金額が計上されている場合、簿外債務が隠れている可能性があります。
④注記事項の偶発債務
決算書の注記事項に、偶発債務として訴訟や保証債務が記載されていることがあります。注記を見落とさないようにしましょう。
契約書・議事録で確認すべきポイント
決算書だけでは簿外債務を発見できません。契約書や議事録など、書類を丁寧に確認する必要があります。
①取引基本契約書の損害賠償条項
取引先との基本契約書に、損害賠償条項が含まれていることがあります。過去に納品した製品に欠陥があった場合、損害賠償請求を受ける可能性があります。
②保証契約書
関連会社や取引先の借入に対して、対象会社が保証人になっていないかを確認します。
③訴訟・紛争の有無(取締役会議事録)
取締役会議事録を確認し、訴訟や紛争が議題に上がっていないかをチェックします。
④リース契約・レンタル契約
リース契約やレンタル契約の内容を確認します。特に、中途解約時の違約金条項に注意が必要です。
DDで使える簿外債務チェックリスト
DDで簿外債務を見落とさないために、以下のチェックリストを活用してください。
労務関連
- 退職金規程の有無と退職給付引当金の計上状況
- タイムカードと給与支払額の照合(未払残業代の有無)
- 固定残業代の適用状況
- 社会保険の加入状況と納付状況
偶発債務
- 係争中の訴訟・紛争の有無
- 保証債務の有無
- 製品保証・クレーム対応の状況
契約関連
- 賃貸借契約の原状回復義務
- リース契約の残債と中途解約条項
- 取引基本契約の損害賠償条項
環境・施設
- 土壌汚染の有無
- アスベストの使用状況
- 産業廃棄物の適正処理状況
簿外債務が見つかった場合の対処法
対処法①:価格交渉で減額を求める
簿外債務の金額を定量化し、買収価格から減額することを交渉します。
たとえば、退職給付債務が5,000万円あることが判明した場合、買収価格を5,000万円減額するよう求めます。
対処法②:表明保証条項で補償を受ける
株式譲渡契約書に「表明保証条項」を盛り込み、簿外債務が発生した場合は売り手が補償することを約束させます。
ただし、売り手に補償能力がない場合、実効性に欠けます。
対処法③:ディールブレイクの判断
簿外債務の金額があまりにも大きい場合、買収そのものを中止する判断も必要です。
買収価格を大幅に下げても採算が取れない場合は、ディールブレイクを選択すべきです。
まとめ
簿外債務は、貸借対照表に計上されていない債務であり、買収後に顕在化して買い手の負担になります。
代表的な簿外債務としては、退職給付債務、未払残業代、偶発債務などがあります。決算書だけでは発見できないため、契約書や議事録を丁寧に確認する必要があります。
DDで簿外債務を見落とすと、買収価格の妥当性が崩れ、場合によってはディールブレイクの判断を迫られます。簿外債務の発見は、買収の成否を左右する重要なポイントです。
DD費用をケチると、買収後に数千万円から億単位の損失につながる可能性があります。専門家に依頼して、徹底したDDを実施することをおすすめします。
当事務所では、財務DDから税務DDまで、M&Aに関する包括的なデューデリジェンスをサポートしています。「簿外債務が心配」という方は、お気軽にご相談ください。


