事業譲渡で消費税1,000万円超?買い手が見落とす資金繰りの罠

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下木原 誠
 編集:下木原 誠
 公認会計士、税理士、中小企業診断士、社会保険労務士、応用情報技術者

私はこれまでIT系事業会社の経理として連結決算や単体決算、コンサルティングファームのコンサルタントとして会計アドバイザリー、公認会計士として金商法・会社法監査といった、会計に関わる業務に従事してきました。 業務の際は、あるべき姿を提示するだけではなく、事業者様の目線に立った価値提供を常に心がけております。 お客様のパートナーとして、事業の成長に貢献できるよう努めますので、よろしくお願いいたします。

事業譲渡を検討している買い手企業が見落としがちなのが、消費税の負担です。

株式譲渡では消費税がかからないため、「M&Aに消費税なんてかかるの?」と驚く方は少なくありません。しかし事業譲渡は「資産の譲渡」に該当するため、課税資産に対して10%の消費税が発生します。

課税資産が1億円なら消費税は1,000万円。のれん(営業権)が大きい案件では、消費税だけで数千万円に達することもあります。この金額を資金計画に織り込んでいないと、クロージング直前で資金が足りないという事態になりかねません。

本記事では、事業譲渡における消費税の仕組みと、買い手が押さえておくべき資金繰りの注意点を解説します。

事業譲渡には消費税がかかる——株式譲渡との大きな違い

M&Aのスキームによって、消費税の扱いはまったく異なります。この違いを理解しておかないと、想定外の資金負担が発生することになります。

株式譲渡の場合、取引対象は「株式」です。株式は有価証券に該当し、有価証券の譲渡は消費税法上「非課税」とされています。つまり、株式譲渡では消費税は発生しません。

一方、事業譲渡の場合、取引対象は「事業に属する資産・負債」です。これは消費税法上「資産の譲渡等」に該当し、課税取引となります。つまり、消費税がかかります。

ちなみに、会社分割は「組織再編行為」に該当し、資産の譲渡等には当たらないため、消費税は課税されません。

消費税の観点だけで見れば、会社分割の方が有利に見えます。ただし、会社分割には株主総会の特別決議が必要など手続きが複雑になるため、手軽に実行できる事業譲渡が選ばれることも多いのが実情です。

課税される資産・されない資産を整理する

事業譲渡で消費税を計算するには、まず譲渡対象資産を「課税資産」と「非課税資産」に分類する必要があります。

課税資産(消費税がかかるもの)

  • 棚卸資産(商品、製品、原材料)
  • 機械装置、車両運搬具
  • 建物、建物附属設備(土地を除く)
  • 器具備品
  • ソフトウェア、特許権、商標権などの無形固定資産
  • 営業権(のれん)

非課税資産(消費税がかからないもの)

  • 土地、借地権
  • 有価証券(株式、社債など)
  • 売掛金、貸付金などの債権

ここで見落としがちなのが、のれん(営業権)にも消費税がかかるという点です。

事業譲渡では、譲渡価格が純資産を上回る部分が「のれん」として認識されます。こののれんも課税資産に含まれるため、のれんが大きいほど消費税額も膨らみます。

たとえば、純資産1億円の事業を1億5,000万円で買収した場合、のれんは5,000万円。こののれん5,000万円にも10%の消費税500万円がかかります。

消費税額の計算方法と具体例

消費税額の計算式は、非常にシンプルです。

消費税額 = 課税資産の合計額 × 10%

ただし、譲渡対象の資産を一つひとつ「課税」「非課税」に仕分けする必要があるため、実務は複雑になります。
具体例で見てみましょう。

【ケース】事業譲渡価格2億円の場合

  • 棚卸資産 3,000万円(課税)
  • 機械装置 2,000万円(課税)
  • 建物 4,000万円(課税)
  • 土地 5,000万円(非課税)
  • 売掛金 1,000万円(非課税)
  • のれん 5,000万円(課税)
  • 合計 2億円

—この場合、課税資産の合計は1億4,000万円(棚卸資産3,000万円+機械装置2,000万円+建物4,000万円+のれん5,000万円)。

消費税額は 1億4,000万円 × 10% = 1,400万円 となります。

つまり、買い手は事業譲渡価格2億円に加えて、消費税1,400万円を売り手に支払う必要があります。合計2億1,400万円の資金が必要ということです。

買い手が見落とす「資金繰りの罠」

消費税に関して、買い手が見落としがちなポイントを整理します。

罠①:消費税は買収資金とは「別枠」で用意する必要がある

銀行に「事業買収のために1億5,000万円貸してください」と言って借りた場合、その1億5,000万円は譲渡対価に充てられます。消費税分は別途用意が必要です。

自己資金で賄えればよいですが、そうでなければ追加融資が必要になります。クロージング直前になって追加融資を申し込んでも、銀行の審査には時間がかかります。資金計画は消費税込みで立てておくことが重要です。

罠②:消費税を払うのは買い手、納税するのは売り手

一般の商取引と同じく、消費税を「負担する」のは買い手です。買い手は売り手に対して、譲渡対価に消費税を上乗せして支払います。

一方、消費税を「納税する」のは売り手です。売り手は買い手から預かった消費税を、確定申告で税務署に納付します。

つまり、買い手が支払った消費税は、いったん売り手の手元を経由して税務署に流れていくわけです。

罠③:仕入税額控除で還付を受けられる——が、簡易課税だと受けられない

買い手が事業譲渡で支払った消費税は、「仕入税額控除」の対象になります。本則課税を選択している事業者であれば、確定申告で還付を受けられる可能性があります。

ところが、簡易課税を選択している場合、仕入税額控除は適用されません。

簡易課税は、預かった消費税に「みなし仕入率」を掛けて納税額を計算する制度です。実際に支払った消費税は考慮されないため、事業譲渡で支払った消費税が丸ごと持ち出しになります。

事業譲渡を予定しているなら、自社の消費税の課税方式を必ず確認してください。簡易課税を選んでいる場合は、本則課税への変更を検討する価値があります(ただし、変更には届出と一定の期間が必要です)。

消費税を回避・軽減する方法

事業譲渡で消費税が発生するのは避けられませんが、いくつかの方法で負担を軽減できる場合があります。

方法①:会社分割スキームへの変更

前述の通り、会社分割は消費税の課税対象外です。

手続きは複雑になりますが、消費税負担がネックになる場合は、会社分割への変更を検討する価値があります。ただし、会社分割には株主総会の特別決議や債権者保護手続きが必要なため、スケジュールに余裕を持って準備する必要があります。

方法②:棚卸資産を減らしてから譲渡する

棚卸資産は課税資産です。譲渡前に在庫を圧縮しておけば、消費税額を減らすことができます。

たとえば、通常より早めに在庫を売り切っておく、仕入れを絞るなどの対応が考えられます。売り手との交渉で、クロージング日を在庫が少なくなるタイミングに設定するのも一つの方法です。

方法③:課税売上割合への影響を事前に確認する

事業譲渡で非課税資産(土地など)の割合が大きいと、売り手の「課税売上割合」が95%を下回る可能性があります。

課税売上割合が95%未満になると、仕入税額控除の計算が複雑になり、控除できる消費税額が減ることがあります。売り手側の税務にも影響するため、事前にシミュレーションしておくことが重要です。

まとめ

事業譲渡では、株式譲渡と異なり消費税が発生します。

課税資産が大きければ、消費税だけで1,000万円を超えることも珍しくありません。特に、のれん(営業権)にも消費税がかかる点は見落としがちです。

消費税は「想定外の出費」ではなく、「想定すべき出費」です。

買収資金計画を立てる際は、必ず消費税を織り込んでおきましょう。また、自社が簡易課税を選択している場合は、仕入税額控除が受けられない点にも注意が必要です。

当事務所では、事業譲渡・会社分割など各スキームの税務シミュレーションから資金計画の策定までサポートしています。「事業を買収したいが、税金面が不安」という方は、お気軽にご相談ください。

下木原 誠
 編集:下木原 誠
 公認会計士、税理士、中小企業診断士、社会保険労務士、応用情報技術者

私はこれまでIT系事業会社の経理として連結決算や単体決算、コンサルティングファームのコンサルタントとして会計アドバイザリー、公認会計士として金商法・会社法監査といった、会計に関わる業務に従事してきました。 業務の際は、あるべき姿を提示するだけではなく、事業者様の目線に立った価値提供を常に心がけております。 お客様のパートナーとして、事業の成長に貢献できるよう努めますので、よろしくお願いいたします。

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