3,000万円の設備投資が「今期の経費」になる?経営力向上計画の即時償却、本当に得する会社・損する会社
「新しい機械を入れたいけど、税金のことを考えると踏み切れない」
設備投資を検討している経営者から、こうした相談をよく受けます。
そんなとき話題に上がるのが「経営力向上計画」です。この制度を使えば、数千万円の設備投資を「即時償却」——つまり、買った年に全額経費にできると聞いて、興味を持っている方も多いでしょう。
ただ、この制度、使い方を間違えると「思ったほど得しなかった」ということにもなりかねません。本記事では、経営力向上計画の即時償却について、メリットだけでなく注意点も含めて解説します。
そもそも経営力向上計画とは何か
経営力向上計画は、中小企業等経営強化法に基づく認定制度です。
ざっくり言うと、「こういう設備を入れて、こうやって生産性を上げます」という計画書を国に提出し、認定を受けると税制優遇が受けられるというものです。
制度自体は2017年から始まっており、現在は令和9年(2027年)3月31日まで延長されています。
税制優遇の内容は、以下の2つから選択できます。
- 即時償却:設備投資額の全額を、取得した年度の経費として計上できる
- 税額控除:設備投資額の10%(資本金3,000万円超は7%)を法人税から直接控除できる
「即時償却」という言葉のインパクトが強いので、こちらを選ぶ方が多いのですが、実は税額控除の方が得なケースもあります。後ほど詳しく説明します。
即時償却で何が起きるか——「節税」ではなく「課税の繰延べ」
ここで、よくある誤解を解いておきます。
即時償却は「節税」ではありません。正確には「課税の繰延べ」です。
通常、設備投資をした場合、その費用は「減価償却」として耐用年数にわたって少しずつ経費にしていきます。たとえば、耐用年数10年の機械を3,000万円で購入した場合、毎年300万円ずつ経費にしていくイメージです。
即時償却では、この3,000万円を購入初年度に一括で経費にできます。その結果、初年度の利益が大きく圧縮され、法人税が減ります。
ただし、翌年以降は減価償却費がゼロになります。つまり、トータルで経費にできる金額は同じ3,000万円。生涯で払う税金の総額は変わらないのです。
それでも即時償却にメリットがある理由
「トータル同じなら意味ないじゃないか」と思うかもしれません。でも、実務的には以下のメリットがあります。
- 資金繰りの改善
今期の税金が減れば、その分のキャッシュが手元に残ります。設備投資で資金が出ていったタイミングで、税金も減るのは大きな助けになります。 - 投資回収の早期化
「税金の先送り」は、言い換えれば「国からの無利息融資」のようなもの。その資金を事業に回すことで、投資回収を早められます。 - 将来の税率変動リスクへの対応
将来、法人税率が下がる可能性もあります。今のうちに経費を多く計上しておけば、結果的に得になることもあります。
即時償却と税額控除、どちらを選ぶべきか
経営力向上計画では、即時償却と税額控除のどちらかを選べます。
結論から言うと、多くの場合、税額控除の方が「実質的な減税」になるため得です。
税額控除は、設備投資額の10%を法人税から直接差し引けます。3,000万円の設備なら、300万円の税金が減る計算です。これは繰延べではなく、純粋に税負担が減るのです。
ただし、即時償却を選ぶべきケースもある
以下のような状況では、即時償却を選んだ方がよいでしょう。
- 今期の利益が大きく、税負担を今すぐ下げたい
- 来期以降、売上・利益が下がる見込み
- 資金繰りが厳しく、キャッシュを手元に残したい
赤字企業は要注意
赤字の企業は、即時償却しても税金がゼロなので意味がありません。
税額控除の場合、控除しきれない分は翌年に繰り越せるため、赤字企業は税額控除を選んだ方が有利です。
対象になる設備・ならない設備
経営力向上計画の税制優遇を受けるには、対象となる設備に投資する必要があります。
設備の種類によって「類型」が分かれており、主なものは以下の通りです。
A類型(生産性向上設備)
工業会等から証明書を取得できる設備が対象です。要件は以下の2つです。
- 一定期間内に販売されたモデルであること(最新モデルでなくてもOK)
- 生産効率やエネルギー効率などの指標が、旧モデル比で年平均1%以上向上していること
対象設備と最低取得価額は以下の通りです。
| 対象設備 | 最低取得価額 |
|---|---|
| 機械装置 | 160万円以上 |
| 工具 | 30万円以上 |
| 器具備品 | 30万円以上 |
| 建物附属設備 | 60万円以上 |
| ソフトウェア | 70万円以上 |
B類型(収益力強化設備)
投資利益率が年平均5%以上となる投資計画を策定し、経済産業局の確認を受けた設備が対象です。
A類型と異なり、公認会計士または税理士による事前確認が必要です。
対象外になるケース
以下は対象外なので注意してください。
- 中古設備(新品のみ対象)
- 電気業、水道業、鉄道業など一部業種の設備
- コインランドリー業(他者に管理を委託するもの)
- 暗号資産マイニング業の設備
- 発電設備のうち、販売目的の割合が1/2を超えるもの
申請手続きの流れと「よくある失敗」
経営力向上計画の申請から税制優遇を受けるまでの流れは、おおむね以下の通りです。
基本的な流れ(A類型の場合)
- 設備メーカーを通じて、工業会から「証明書」を取得
- 経営力向上計画を作成し、主務大臣に申請
- 認定を受ける(申請から約1ヶ月)
- 設備を取得し、事業に使用開始
- 税務申告時に必要書類を添付
よくある失敗①:先に設備を買ってしまう
これが最も多い失敗です。
原則として、経営力向上計画の認定を受けた「後」に設備を取得する必要があります。
「良い機械があったから先に注文した」「納期の関係で先に買うしかなかった」というケースでは、税制優遇を受けられない可能性があります。
例外として、設備取得後60日以内に計画の認定を受ければ適用可能ですが、かなりタイトなスケジュールになります。
よくある失敗②:認定までの期間を見誤る
経営力向上計画の認定には、申請から約1ヶ月かかります。複数の省庁にまたがる場合は約45日。
決算直前に「今期中に経費にしたい」と駆け込んでも、認定が間に合わないことがあります。
設備投資を検討し始めた段階で、早めに計画策定に着手することが重要です。
よくある失敗③:工業会証明書の取得に時間がかかる
A類型で必要な工業会証明書は、設備メーカーが申請するものですが、発行までに2〜3週間かかることがあります。
設備メーカーに依頼したつもりでも、担当者が慣れていないと手続きが遅れることも。早めに催促しておきましょう。
顧問税理士・認定支援機関との連携が成功のカギ
経営力向上計画は、経営者が一人で進めるには複雑な制度です。特にB類型は、公認会計士または税理士による投資計画の事前確認が必須です。
また、「認定経営革新等支援機関」(認定支援機関)に相談すれば、計画策定のサポートを受けられます。
設備メーカーに任せきりにすると、「証明書は取れたけど、計画の申請が遅れた」「そもそも対象外の設備だった」といったトラブルが起きることも。
税務に詳しい専門家と連携して進めることを強くお勧めします。
まとめ
経営力向上計画を活用した即時償却は、設備投資時の資金繰りを改善する有効な手段です。
ただし、以下の点は押さえておいてください。
- 即時償却は「節税」ではなく「課税の繰延べ」
- 税額控除の方が得なケースもある
- 原則、認定を受けてから設備を取得する(順番を間違えると適用不可)
- 認定まで1ヶ月程度かかるため、早めの準備が必要
当事務所は認定経営革新等支援機関として、経営力向上計画の策定支援を行っています。「設備投資を検討しているが、税金面でどう進めればよいかわからない」という方は、お気軽にご相談ください。


