2025年中小企業白書のまとめの所感と自社の課題解決に繋げるための読み方
毎年春に発行される中小企業白書は中小企業経営において気づきがたくさんあります。
既に知っていることも多いですが、信頼できる情報ソースとして、そして中小企業のここ1年の動向を網羅的に理解することが可能です。
また、企業はこの情報を元に様々な施策や方向性を作っていきますので中小企業白書のデータを見ながら経営方針を作っていくと税制・補助金・助成金においても優遇されやすくなります。
ただ、本紙は非常に分厚く大変ですので中小企業庁がまとめてくれているデータを元にサクッと要点と所感をまとめました。
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目次と概要で大筋を理解
まずは目次と概要をしっかりと読み込むことでどんなことが書かれているか理解することができ、その後の内容理解が深まります。
忙しい人はここだけでも学びになるかと思います。
毎年一部で昨年1年間の動向があり、その結果を元にした課題解決の提示を2部で行うと言う構成になっています。
そこで、目次を眺め、どういうことが書かれているかおおよその予測を立てます。
第一章で業況をまとめた上で、
第二章は最近の金利上昇や円安、物価高騰について触れ、
第三章で、環境変化の中で中小企業の苦しい人手不足と人件費について触れ、
第四章で、人手不足を補うためのデジタル活用に触れ、
第五章で、人手不足のためには価格転嫁が重要、と言うテーマで語り、
第六章で、具体的な賃上げについての状況や具体的な施策について触れ、
第七章で、苦しい環境下での倒産や廃業について確認し、
第八章で、お金だけじゃない価値の打ち出しの有効性について触れる
といった感じで、なんとなくアテをつけます。
そうすることでこの後の情報が理解しやすくなります。
要約すると、
金利上昇・円安・物価高騰の中で大企業のように賃上げできずに人手不足と人件費の圧迫が苦しい中で、いかに生産性向上と価格転嫁で利益を確保し、賃上げを実現し、事業を成長・存続させられるか、うまくいっている会社の傾向を学びましょう!
と言うのが今回の主旨であることを目次から読み取ることができます。
次に概要に入ります。
この文章は略さずに一回全文を読むことをおすすめします。
基本的にはおおよそニュースなどで言われていることを中心に語られていますが、その中で特に目立つんを少し抜粋したいと思います。
太文字と「」を強く意識する
国の刊行物である資料は太文字や「」を担当者の気分でつけるようなことはありません。
そのため、どの言葉を太文字にするか慎重に選び、その上で「」で本当に重要な点を強調してると思われます。
激変する環境において
こういう政府の資料は言葉を正確に使いますので、”激変”と言う言葉を使っているのは確かな統計データを元に時代が激しく変化していることを伝える意図でこの言葉が使われていることを理解します。
つまり、現在の社会環境は激変の時代であり、今のままの経営ではいけないことが表現されています。
「経営力」と言う言葉の多用
1年分だけ読んでも気づきらいですが、毎年中小企業白書を毎年眺めていると、その時々で使われる言葉が違うことに気づきます。生産性やデジタル、人手不足などは最近の頻出ですが、経営力という言葉が多用されているのは珍しく
”経営力” ”経営人材” ”経営者にないスキルを持つ補完型人材” ”経営者職務権限分散”
と言った言葉が飛び交っています。
特に「経営力」という言葉は3回も強調されて出てきます。
そのため、目次でまとめたことに加え、
経営者自身の「経営力」を向上させないと激変する現在の状況を打破できない、
経営力を引き上げ、持続的な発展に繋げていくための具体的な手段を学ぶことが重要
ということが中小企業白書の今回の重要点なのかということがわかります。
概要の次にある”メッセージ”でよりわかりやすくフレームでまとめられています。
今までのやり方では現状維持も困難
↓
経営者の「経営力」の向上が重要
このような強い言い回しは近年の中小企業白書でほとんど見たことがありません。
コロナ禍よりも強いメッセージかもしれません。
コロナ禍は一過性だったものを政府の支援で乗り切るというというものだったのに対して、激変、つまり一時的なトラブルなのではなく変化であり、今までの姿に戻らないことが言葉の選び方で伝わります。
困難な状況下:一時的に厳しい状況が続いている。困難を乗り越えれば元に戻る可能性あり
激変する環境下:急激に変化している。一時的なものではなく、元には戻らない
このように言葉の違いを理解することで政府のメッセージがよりクリアに伝わるかと思います。
ここまでで、おおよその内容・メッセージが整理されましたのでそこから本旨に入っていきます。
現状分析
不安が煽られているものの、目下の経常利益は緩やかな上昇傾向ではあります。
続いて人手不足についてまとめたデータになります。
この1枚は結構重要なデータになります。
ここ数年の賃上げ率の急上昇がグラフにまとめられています。
左のデータで、全体の賃上げ率に対して中小企業の賃上げ率が大きく離されているのがわかります。
そして、右側のデータでその原因でもある大企業と中小企業の労働分配率の差がわかります。
今後の人材確保における重要な指標として「労働生産性」を改善することが重要であることが認識できます。
コロナ以降の大企業の成長が著しく、これにより賃金格差が拡大したことが理解できます。
大企業はコロナや物価高騰を機にDXと価格転嫁を中心に生産性を引き上げていきました。
コストが上昇している環境下では変動費を固定費化させる設備投資が労働生産性に効果的です。
大企業と中小企業の労働分配率の差とソフトウェア投資比率の差が同じような開きになっています。
設備投資全体のなかで中小企業の方がデジタルに使う比率がかなり少ないことがうかがえます。
近年叫ばれていた価格転嫁については一定の成果が出始めているようです。
元請け・消費者の理解も高まっていますが、大企業に比べてまだ弱い傾向です。
続いて現状分析として、金利・円安・物価と人件費高騰により苦しい環境が続いている分析がまとめられています。
そして、この現状分析の中で重要な取り組みに入っていきます。
ここからは経営力の重要性とスケールアップというテーマに触れたいと思います。
経営力の重要性
経営力が問われる時代へ
経営課題の第一位が人材確保と言われています。
そのためには売上増加が必要であり、経営計画を策定している会社の方が売上の増加率が高く、
5年長の経営計画を立てている会社は付加価値の増加率が高いことがわかります。
まずは経営計画をしっかりと策定し、そこを目指して売上高を伸ばしていくことが重要です。
また、中期経営計画を立てることで設備投資をしやすくなります。
単年度だけで見るとどうしてもPLにのみ目が向きがちで、生産性向上に対する意識が上がりづらいです。
期を跨いだ、未来に向けた改善活動を行うことで生産性、付加価値が引き上がります。
人材確保においても経営計画に基づいた人員計画を立てることで計画的に採用活動を行うことができます。
人材確保に必要な賃上げについて
このセクションでは賃上げするための売上・付加価値向上について触れています。
こちらは差別化と市場環境への意識の重要性について書かれています。
当たり前ですが、差別化・市場環境意識が価格転嫁につながることをまとめています。
「顧客が求めているものを差別化して売れば価格は引き上げられる」というメッセージがうかがえます。
賃上げ以外の人材確保施策について
前述では賃上げについて触れていますが、ここでは賃上げ以外の施策について書かれています。
要点をまとめると
・経営理念の浸透
・経営の透明性向上
・ガバナンス体制の強化
・働き方改善
・社会貢献による企業イメージ向上
というテーマで書かれています。
企業理念の浸透や経営の透明性、取締役会の設置などを通して従業員のやる気や付加価値向上、財務内容の健全化が図られ、それによって人材確保に繋がります。
昨年の白書でも出てきましたが、政府は最近”所有と経営の分離”、外部資本の受け入れを推奨しているように見受けられます。
続いてこちらは人材定着の具体的な取り組みについて。賃上げ以外では
・社内コミュニケーションの円滑化
・有給や育児休暇
・時間外労働の削減
こちらが重要になります。
特に時間外労働は人件費削減と生産性向上にも寄与しますので重要な施策となります。
また、社内コミュニケーションが直近3年の定着に効果的であるというデータもかなり参考になります。
こちらは価値観への対応。大きな効果を生むかは企業によりますが、こういった小さなことの積み重ねが人材確保にも中期的に繋がっていきます。
経営者の交流、学び直しは昨年の白書にも出ており、政府が強化したいという意志が見えます。
経営者の成長は抜本的な解決策であり、激変する時代においてより重要になっていくと思われます。
スケールアップについて
ここ数年、中小企業の規模拡大が叫ばれています。
理由としては規模が大きくなるにつれて付加価値が引き上がり賃上げもしやすく、人手不足時代においては人が足りず小さな企業が多すぎる状態であることが課題視されているからかと思われます。
伸びる会社に人が集まっていく時代になっていくことが示唆されます。
だからこそ、M&AおよびPMIに積極的に取り組み企業規模を拡大していくことも重要になります。
また、企業規模を引き上げていった後に求められるイノベーションについては近年の白書では毎年取り上げられていますが、イノベーションを引き起こす再現性のある具体的な施策はなかなか定義されていない実情です。
いかがでしょうか?
概ね世間で言われていることかもしれませんが、このようにデータで整理することで中小企業のおおまかな流れと、政府が考える対策が理解できるのではと思います。
特に近年の激変する時代においては経営者の能力向上が求められます。
今までのやり方を変えるのには過去を否定することも必要ですし、社内の軋轢やリスクを伴います。
外部資本を入れたり取締役を増やすことで経営陣の裁量が下がることもあり、相応の覚悟が必要になります。
効果が不確かなデジタルへの多額の投資にも勇気が必要です。
そのような経営者にしかできない判断を適切に行い、推進していくことが激変する時代に求められており、自社において適切な意思決定を行うことが「経営力」になるのかと思われます。
中小企業白書を通して、自社の経営力の向上に向けて取り組んでみてはいかがでしょうか?